心地よい春の風が吹く中。 白羊宮の外でお茶を飲むムウさんとシャカさんのところに茶菓子を運ぶ。 周りには青々とした草や木々が白い石畳によく生えている。 うん、気持ちいい。 「どうぞ」 「ああ、ありがとうございます」 「うむ、礼を言おう」 日当たりのいい場所でのんびりと話をしていたらしい彼らは私の姿に気がつくと微笑んだ。 それに笑みを返して茶菓子を渡して退出しようとすれば、ムウさんが突然私の手を掴む。 「それで、なまえ。アイオロスとは最近どうなんですか?」 「さ、さて、なんのことですか」 「しらばっくれても無駄ですよ。あの日彼が小宇宙で聖域中に叫び散らしていたんですから。・・・貴女と恋仲になったことをね」 ああ、アイオロスさん。 あの日は流されて何も言うことはできなかったが、やっぱり一発くらい叩いておくべきだったのかもしれない。 これはなんという羞恥プレイだ。一種の苛めではないのか。いや、苛めに違いない。 「まったく残念ですよ。いっそのこと私にしてはどうですか、なまえ?」 「あはは、ムウさんも冗談とか言うんですねー」 「な・・・」 「ふむ、して君はいつからアイオロスのことを好いていたのだ」 緑茶の入った湯呑を机に置いたシャカさんは、こちらを振り向くと無表情にそう聞く。 「シャカさんまでそんなことを聞かないで下さいよ!プライバシーです、プライバシー!!」 というより、無表情に話す内容なのか、これは・・・。 「ですがなまえ!あの脳味噌が筋肉と筋肉と筋肉でできているアイオロスのことですからね。貴女に何かあってからでは遅いかと」 「ムウさん、貴方はアイオロスさんをなんだと思っているんですか」 「筋肉です」 「仁智勇を兼ね備えているってサガさん言っていましたよ!!」 「おや、それはシオンの気のせいだったのでは?」 アイオロスさんが聞いて泣いても知らないぞと告げれば、ムウさんはしれっと構いませんと言う。 なんだろう、この人にだけは敵わない気がする。 ・・・なんとういうか、人間的に。 そんな時、誰かに名前を呼ばれた気がして振り返れば、案の定だったらしい。 「なまえー!なまえー!!」 「おや、アイオロスの声ですね」 「うむ、アイオロスの声だな」 そう言って二人も白羊宮のほうをむいて呟く。 そこにはアイオロスさんとアイオリアさん兄弟がこちらに向けて駆けてきているところだった。朝から元気な兄弟だ。 「ああ、なまえ。こんなところにいたのか」 「こんなところとは随分な言い草ですね、アイオロス」 「はっはっは、いや悪意はないんだ。ただ、教皇宮にいつもいるなまえが、一番下の宮にいるとは思っていなかったから」 そう言って笑ったアイオロスさんをしばらくムウさんはじっとりと見つめていたが、次第に諦めて目を伏せた。 「まあ、いいでしょう。それで?なまえに用があるのでは?」 「ああ、そうだった!なまえ、よく聞いていてくれ!」 「・・・?は、はい」 にこにこといつもの三割増しな笑顔でアイオリアさんを前に押し出す。 反対にアイオリアさんは、顔の筋肉が攣るのではないかとこちらが不安になってくるほどに引きつり、さらに真っ赤だった。 なんだなんだ、一体彼は何をするつもりだ。 「そ、その、なまえ・・・!」 「は、はい・・・!」 真っ赤なアイオリアさんに、何故か私の顔まで熱くなってくる。 また、力んだまま私の名前を呼んだアイオリアさんに、何故か私まで身体に力が入る。 なんだ、この共鳴感は。 「なまえ、ね・・・」 「ね?」 一体何だと首を傾げた瞬間、アイオロスさんがアイオリアさんの背中をたたく。 いきなり何をするのだと、口を開きかけた瞬間、アイオリアさんが覚悟を決めたように目を瞑って声を張り上げた。 「なまえ姉さん・・・!!!!」 「ぶふ!!」 「は?」 「うわっ、汚いな、ムウ!」 「汚いぞ、ムウよ」 飛び散った緑茶にシャカさんとアイオロスさんが顔を顰める。 目の前で顔を真赤にさせたままのアイオリアさんはそれどころではないのか黙ったままだ。 「…ムウさん、ハンカチどうぞ」 「し、失礼。・・・ではなく、いきなり何を言い出すのですか、アイオリア」 「・・・っ!・・・そ、そうですよ!!なんですか、急に!」 名前を呼べば、もうそれ以上赤くならないのではないかと思うほど赤かった顔をさらに赤らめてアイオリアさんはアイオロスさんを見た。 「に、兄さんが・・・!」 「ああ、よくできたな、アイオリア!兄は嬉しいぞ!!」 「兄さん・・・!!」 「アイオロスさん、あまり純情なアイオリアさんをからかわないで下さい。私は彼の姉ではないでしょう」 「今はな」 「?」 そう言って意味深に笑ったアイオロスさんに、私が首をかしげるのと同時にシャカさんが彼に数珠を投げつけた。 それをまったく動じることなく受け止めたアイオロスさんへシャカさんが問う。 「アイオロス、なまえを娶るつもりかね」 「え、ちょ・・・、シャカさん、何を言って」 「もちろんだ!」 「ほら、アイオロスさんもそう言って・・・え?ちょ、・・・何を言っているんですか、貴方は!!」 そう言えば、アイオロスさんはケロリとした顔で私を見た。 「そうしたら、遅かれ早かれなまえはアイオリアの姉になるわけだろう?」 「そういう話じゃなくてですね」 「違うのか?なまえは私と結婚してくれるだろう?」 だったら、今から呼んでしまっても、と悪びれなく笑ったアイオロスさんの言葉を私は最後まで聞くことができなかった。 日常が羞恥プレイの気がする (あっ!なまえが逃げた!!) (振られましたね) (振られたようだな) (照れ屋だな!) (貴方の行きすぎたポジティブはもはや見習う気にもなりませんよ) (ムウさんやシャカさんもいたのに、恥ずかしすぎる!!!) |