「あー…、あつい…」 ばたりと冷たい光沢を放つデスクに倒れ込む。 うん、ちょっと冷たくて気持ちいいかな。 だがそんな私を嘲笑うように窓から差し込む太陽光。 殺人光線だ。熱すぎる。暑い、じゃなくて熱いだ。 日本のような湿気はないが、この暑さはこたえる。 そもそもまだ夏にもなっていないのに、この暑さ。私は果たして聖域の夏を乗り越えられるのか…。 「ああ、確かに今日は暑い」 パタパタと書類を団扇代わりに使いながら、アイオロスさんが私の隣に座った。書類に超重要と赤判子で押された文字が見えたが、暑くてそれにたいして何か言う気も起きず、気のせいだったということにする。ごめんなさい、サガさん。この暑さが悪いと思います。 「アイオロスさん、涼しくなるようなことしましょう」 「涼しくなるようなこと?」 「日本じゃ、夏に肝試しとかで涼しさを感じようと努力するんです」 そういうとアイオロスさんは、面白そうにへぇ、と呟いた。 そうだよそうだよ。 暑いなら涼しくなればいいんだよ! 「じゃあ今晩肝試しでも?」 「ギリシャの夜は冷えるので必要ないです。今やりましょう!」 「こんなに明るいのにかい!?」 「肝試しじゃなくても、ほら……星矢君が沙織ちゃんのスカートめくるとか」 「それは肝が冷えるな・・・」 というか、どうなるか分からないから止めようと言ったアイオロスさんに頷く。 発案しておいてどうかと思うが確かにそれは後が怖い。あと星矢君が可哀相な目にあうのが分かりきっている。却下。 「双子座のヘッドをバケツ代わりに掃除とか」 「サガが泣くだろうな」 確かに。 それはなんだかサガさんに申し訳ないから却下にしよう。そういえば、あのヘッドは水漏れして目から水をばたばた流すという噂を星矢君に聞いたが、本当なのだろうか・・・。 「うー」 ふと風を感じて目線を窓へ。 広がる無限の空。 涼しそうな青空が恨めしい。青色、ああ、涼しそう…。 だがぽっかりと流れる真っ白な雲が、なんとも夏の空を連想させる。 人馬宮の窓から見える青々とした木々も夏の暑さを思い起こさせるだけだ。 ああ、暑い。 どうしようもないのはわかっているが、温暖化を恨めしくおもいながら再度呟くとアイオロスさんが、隣で唸った。 「うーん…」 「どうしました」 「なまえ、ちょっとアテネまで一緒に行こうか」 「え、なんでですか?」 「アイスを買って、海でも眺めながら日陰でのんびりしよう」 「あー、いいですねー」 「ついでに夕日も見る、なんてどう?」 「最高です」 ロマンチックだー、なんて笑えばアイオロスさんもロマンチックだ、と笑った。 「じゃあなまえ」 「ええ、アイオロスさん」 「行こうか」 「行きましょうか」 デスクに倒れこんでいた私の手を引いたアイオロスさんは、ふと青空を見上げて目を細めた。 ある初夏の昼時のはなし 心地好い風の吹き抜ける十二宮の白い階段。 眼下の景色を見ているだけでも楽しめるそこを歩くアイオロスさんの横顔が目に入った。 「…?なにをニヤニヤとしているんです?」 「え?なまえとのデートは二回目だなーって!」 子供っぽい笑顔を浮かべたアイオロスさんはそのまま私に後ろから抱き着いてくる。 うん、暑い。 ちょっとばかりからかってみよう。 いつもならそんなことは考えないのだが、如何せん、暑さで私の頭もどうにかしていたらしい。 「調子に乗らないでください」 「ひどいぞ、なまえ!期待泥棒!!」 「冗談です」 想像以上に効果抜群だったらしいその言葉にアイオロスさんは訳の分からないことを言って腕の力を強めた。それに吹き出しながら言えば、彼が力を込めたまま固まった。 ちょっと苦しいぞ。 「…冗談?」 「ええ」 「そんな悪いことをする子にはお仕置きが必要かな」 「例えば?」 「今日は一日このままとか」 まったく、このひとは何を考えているのだか。 こんな、み、密接した状態でアテネに行くだと?は、破廉恥だ!羞恥プレイだ、意地悪だ!! 「帰りましょうか、今すぐ」 「え、ええ!?」 そういえば即座に離れたアイオロスさんについふき出してしまう。 「なまえ、またからかったのかい!?」 「い、いや、だって…」 「問答無用!今私は有言実行することに決めた!」 「え?や、やめてくださいって、それだけは!」 (おい、さっきなまえとアイオロスが大騒ぎしながら駆けていったぞ) (青春だね) (おいアフロディーテ、そこは俺の椅子だ) |