「なまえ、危ないぞ」

海岸沿いの時折押し寄せる波を避けてひょこひょこと歩いていると後ろからゆっくりとついてくるアイオロスさんがそう言った。沈みかけの真っ赤な太陽が海岸沿いを赤く染め上げて、海面がきらりきらりと光るのがとても綺麗だ。一瞬バランスを崩しかけて、それにまたアイオロスさんが危ないから、ちゃんと道を歩けと言った。だけど、ふふん!わたしはバランス感覚には自信があるのだ。平均台の上でスキップとか後ろ歩きとか余裕だからね!だから


「大丈夫だと思いま、したああああ!!!」
「ちゃんと過去形に直したことは評価したほうがいいかい?」
「げほっ、結構です、ううっ、は、鼻に・・・!」

ぐらりと体制が崩れた一瞬後に、ばざんという水の音とともに、鼻の中に流れ込んできた海水に咳き込む。うわ、喉にまで入った、痛い。辛い、痛い、わけ分からない。

「うぇ・・・」
「大丈夫か、なまえ?ほら」
「ありがとうございます・・・」

びっしょりだとしゃがみ込んだまま笑えば、アイオロスさんは苦笑した。差し出された手をとって起き上がる。ぼたぼたとシャツから海水が流れ落ちた。ざあざあと足元に押し寄せる波などもはや避ける気にもならない。

「人の意見は聞くべきだ」
「いや、本当それを実感しました」

わたしがそう言って笑えばアイオロスさんも苦笑した。だが、それにしても海水というのはそんなにも悪いものではないな。浅瀬のおかげで、胸から上は濡れずに済んだことだけでも上々じゃないか。まあ、下半身は言わずもがな、だが。

「ところでアイオロスさん」
「なんだい、なまえ」
「人の意見は聞くべきですよね」
「・・・そうだな」
「海水冷たくて気持ちいいですよ!」

そう言って、くいと手を引けばアイオロスさんは一瞬目を丸くした後に、子供っぽい笑みを浮かべた。





沈みかけの太陽がきらりきらりと濡れた私たちを照らす
(ちょっ、頭まで浸かれとは言ってないですよ!!)



おまけ→






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