なまえが小さな両手で私の頭を触った。そのまま顔を上げれば、彼女の真っ黒な目と目があう。吸い込まれそうだ、なんて考えているとなまえが少しの沈黙の後静かに口を開いた。

「貴方は、私と世界の平和、どちらが大事ですか」
「それは・・・」

答えられるものだろうか。いや、答えなければならないのだろうか。世界の平和を守ることはなまえの生存に繋がるし、私にとってなまえは非常に大切な存在だ。だから、どちらが大事、その問いに答えはあるだろうか。その問いに答えは必要だろうか。私にとってはどちらも大事で、どちらかをとることはできない。どちらが欠けても困るのだ。だけどやはり私は女神の聖闘士で、だからこそ答えは初めから決まっていた。私には女神に背くような発言はできない。

沈黙した私を見つめていたなまえの目を、ふと悲しみがよぎった。それはもしかしたら気のせいだったのかもしれないが、私にはそう思えた。なまえが淡い笑みを浮かべて、私の頭を抱きしめる。石鹸の、香り。

「いいんです、アイオロスさん、分かっていますから。変な質問をしてごめんなさい。貴方が世界を愛していて、それが何物にも代えがたいものだということは、よく分かっているんです」
「なまえ、」
「でも、だからどうか、ひとつだけ許してください。貴方が世界を愛している分だけ、私が貴方を愛しても良いですか」

もし私が聖闘士でなければなまえにむいていただろう分の愛を全て自分が私に与えても良いかと彼女は笑う。私を抱くなまえの力が少し強くなった。そっとなまえを抱きしめる。わざわざ答えを口にだす必要なんて、なかった。





「っていう夢を見たんだ」
「はっきり言いますけど、貴方はわたしに夢を見過ぎです」




一刀両断
(わたしはそんなに出来た女じゃないですよ!)







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