なまえが机の上にカラフルな包みの飴を並べるのを眺める。ロドリオ村に手伝いに行ったときに貰ったらしい大量のそれを、彼女は嬉しそうにわけていく。

「アイオロスさんにもお裾分けです!」
「ああ、ありがとう」
「どれがいいですか?えっと、種類は葡萄と、桃と」

種類別に分けていくなまえの声を聞く。ああ、これもまた良い午後の過ごし方ではないか、なんて年よりじみたことを考えた瞬間に、なまえが新たな飴を足した。

「オレンジと苺ととうがらしー」
「・・・いや、最後の唐辛子の意味がわからない」

私の言葉にきょとんとしたなまえだったが、すぐに小首を傾げて私を見た。

「でも唐辛子チョコとかあるじゃないですか。アテネのお土産屋さんでも売っていましたよ?」

店員さんに試食をもらったけど美味しくなかった、と笑うなまえ。確かにとうがらしチョコやワサビチョコなんてものは見たことがあるかもしれない。どこで見たのだったか・・・。ああ、あのパーティの日の罰ゲームにミロが食べさせられていたチョコがそれか。だが、それにしても・・・。

「チョコレートなら分かるが、飴で唐辛子はあまり勧められたものではないと私は思うけど」
「案外食べたら美味しいかもしれませんよ?」

そう言ったなまえはへらりと笑って私の掌に赤い包みの怪しい飴玉を置いた。もう袋が警戒色ではないか。自然界では近寄ろうとも思わない色ではないか。そう言えば、前から思っていたのだが、初めてトマトを口にした人間は偉大だと思う。よくあの見た目も中身も警戒色のあの実を食べようと思ったものだ。理解はできないが、実に勇敢である。私がもしトマトを知らなくて、目の前にあれを差し出されたら是非遠慮したい。リンゴと違って中身まで警戒色で、どうみても危険ではないか。そうだ、そしてこの飴、これもどう考えても危険だ。私の本能が危険信号をしきりに鳴らしているから間違いではないはずだ。

「さあ、アイオロスさん!」
「・・・私に毒味をさせるつもりかい、なまえ?」
「そ、そそそ、そんなことはないですよー?」

突然きょどって目を反らしたなまえをしばらく見つめていたが、キリがないと飴を袋から取り出す。赤黒い。もはやグロテスクな飴ではないか。いつだか老師に頂いた・・・中国のカンポウ・・・?のセイロガンとやらがこれを濃くした色をしていた気がする。あれはまずかった。きっとこれもまずいに違いない。

「・・・・」

だが、なまえの期待した視線に耐えきれず口に含む。

「・・・・」

一言で言うならまずい。はっきり言ってしまおう、まったく美味しくない。まずい。辛いようなしょっぱいような、なんとも言えない味である。

「どうですか?」
「なまえ、食べたら案外美味しいかもって言ったな」
「・・・ええ、まあ」

にっこりと笑えば、彼女はなにか嫌な予感がしたのだろうか、さっと目を反らした。だが、そんななまえの肩を掴めば、彼女は驚いたのか目を丸くして私を見た。

「アイオロスさん?」
「私だけこれを味わうのはフェアじゃないと思う」
「!・・・ふっ!私にも食べさせようとしたってそうはいきませんよ、アイオロスさん!!」

なぜなら唐辛子味はそれ一つだけなのだから、と不敵に笑ったなまえだったが、私からすればそれは彼女が墓穴を掘っただけだった。他にもあるのなら、まだそれを食べるという手で逃れられたかもしれないのに、と思えば零れる笑みを止められなかった。かといって、そんなことで逃がすつもりもないが。

私の笑顔に不安を覚えたのか、少し身を引いて黙り込んだなまえの顎を掴んで上を向かせる。彼女はそれで私の真意に気づいたらしく逃げようと身をよじらせたがもう遅い。

「んむ!!」

柔らかな唇に唇を押しつければ、彼女は目を見開いた。真っ黒な目と目が合う。至近距離のおかげで、白い肌が面白いほど真っ赤になっていくのが、良く分かった。驚いたのか、または空気を吸おうとしたのかは分からないがなまえが口を開いたところを狙って唐辛子味の飴を移す。そのまま歯列を舌でなぞれば彼女はびくりとした。このまま続きをしてしまっても良かったのだが、この非常に恥ずかしがり屋のなまえのことだ。怒るかもしれないと黙って離れた。

なまえの顔は、真っ赤なままだった。

「美味しい?」
「・・・ま、まずい、です」



実に素直にそう返したなまえに噴き出したのは、私のせいではない。




休日の午後
(もう一口どう?)
(もう結構です)







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