「・・・む」



汚れが落ちない。黒く擦れたような汚れだ。気になる。

雑巾を擦りつける。


だが、落ちない。
一体何の汚れだ、これ。ああ、一度気になるともう落とすまでここを離れられない。

「ふん!!!!」
「何をしているんですか、貴女は・・・」
「?」

光速を目指して(まあ無理なことなのだが)雑巾で床擦りまくっていると、足元が陰り頭上から呆れたような声がかかる。
見上げれば、さらりとした綺麗な銀髪をかきあげたミーノスさん・・・ドSイッチおにーさんと、その後ろで片手を上げたラダマンティス・・・、素敵眉毛おにーさん。

「ドSイッチおにーさん!素敵眉毛おにーさん!」
「なまえ、普通に呼んでいただけませんか」
「え、けっこういいニックネームだと思っていたんですが・・・、いや、すみませんなんでもないです!ですから拳骨を作らないでください!」
「分かれば良いのですよ」
「・・・お久しぶりです、ミーノスさん、ラダマンティスさん」

よくよく考えれば直接会うのは、沙織ちゃんに冥界に吹っ飛ばされて以来だ。

なんだか懐かしい。

相も変わらず怪虫Gのごとき色と輝きを持った鎧に身を包んだ二人に頭を下げて気がつく。


・・・なんでこの二人が聖域に?

「えっと・・・、なにかご用が?」
「ハーデス様からの書状を預かっています。教皇の元へ案内していただけますか?」
「わ!わっ!ミーノスさん、頭を押さないで下さい!これ以上縮んだら困ります!!」

ぐいぐいと頭を押さえつけてくるミーノスさんから逃れて素敵眉毛おにーさんの背中に隠れる。

「わっ、私、今掃除中なんですが」
「そんなものさっさと終わらせてしまいなさい。冥闘士が単独で聖域をほいほい歩くわけにもいきませんから」
「で、でも・・・、この汚れが落ちなくて」
「なに?」

汚れを指させば、ラダマンティスさんが黒い染みに目をやった。

「・・・確かにこれは気になるな」
「ですよね!」

まっ白な石畳に黒い染み。
一度目につくと気になって仕方がない。
その旨を伝えればミーノスさんが微笑む。

「そんなことでしたら、私にお任せください」
「おい、ミーノス・・・」
「え、ミーノスさん、掃除得意なんですか?だったら是非・・・!」

私の力では落ちなかったのだと、笑った数秒前の私に出会うことが叶うのなら迷うことなく稲妻スーパーハイパーキックをお見舞いしてやりたい。

「ぎゃああああ!!なにをするんですかあああ!!」
「ミーノス!」


染みの横に立ったかと思えば思い切りかかと落とし。


粉砕した床。
粉塵が私の目の前を散って行った。

「・・・・・」


なんてこったい、シオンさんに殺される。

「おや、この際石を変えてしまったほうが早いかと」
「いや普通そんな思考に至りませんから!!!」
「なまえ、すまない。石代はこの馬鹿に請求してやってくれ」
「おや、失礼な」

なんたってこんなことをするんだと溜め息をついたラダマンティスさんにミーノスさんはくすくすと笑って言う。

「彼女ほど苛めがいのある人間は中々いませんからね」
「私はMじゃないですよ!!」

虐めるのはやめてくれと想いをこめてそう言ったのだが、ミーノスさんは特に気にした様子もなく頷いた。

「ええ、知っていますよ」
「だったらそんなドSを発揮しないで下さいって!!」
「何を言っているんですか、なまえ」

きょとんとした様子でそう呟いたミーノスさんの名前を素敵眉毛おにーさんが呆れたような声色で呼ぶ。

「ミーノス、あまりなまえをからかってやるな」
「ラダマンティス、今私は彼女と話しているのです。・・・さてなまえ、本当のSがMごときを苛めて満足するとでも?」
「はい?」

にこにこととっても良い笑顔のミーノスさんを見つめ返す。
そんな私たちを見ていた素敵眉毛おにーさんは溜め息をついて肩をすくめた。

「Mでない少しばかり反抗的な人間を服従させるのが楽しいんですよ」











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