穏やかな春の日差しの中、風が沙織ちゃんのまっ白なスカートの端を、はたはたとはためかせる。彼女は風で大きな帽子が飛ばないように押さえながら沙織ちゃんは笑った。青空をバックにしたその笑顔はとっても綺麗だ。

「それでは行ってまいりますね、なまえさん」
「あ、待って待って、沙織ちゃん!パスポート!」

紺の表紙のそれを彼女に手渡せば、沙織ちゃんはくすくすと笑いながら受け取って鞄の中に入れる。

「あら、入国できなくなるところでしたわ。ありがとうございます」
「はは、行って帰ってくるだけなんて嫌だもんね。あ、見送りするよ」
「まあ、嬉しいです」

アテナ神殿をちらりと見上げた沙織ちゃんは僅かに微笑みを浮かべて歩き出す。
私はそんな彼女の鞄の一つを持ちながら後ろを歩く。

非常に軽くて、まだ何か忘れ物があるのではと僅かに不安になるが、大きな荷物はもうアイオリアさんが飛行機のところへ持って行ってくれたそうだ。
なんて紳士なんだろう。

「だいたい、一週間ほどで戻れると思います」

指を順に降りながら数を数えていた彼女はそう言う。
その言葉に頷いて、私は彼女が留守の間に片付ける仕事をメモする。



日本に戻って城戸財閥の仕事を片付けなければならないと沙織ちゃんが言ったのは昨日のことだ。随分急なことで、シオンさんやサガさんが顔を真っ青にして駆け回っていたのがとても印象的だった。

「本当はなまえさんにも一緒に来ていただきたかったのですが・・・」
「え?私は構わないけど・・・」
「いいえ、そんなことをしたらアイオロスに呪われてしまいそうですから、止めておきます」
「・・・?なんで?」

どうしてそこにアイオロスさんが出てくるのだと首を傾げれば、沙織ちゃんは一瞬きょとんとした。
だが、すぐにくすくすと笑って上目遣いに私を見る。くそ、かわいいな・・・!

「どうしてって・・・」
「・・・?」
「愛する恋人を無理に一週間も引き離したら・・・ね?」
「さ、沙織ちゃん!!」
「純情ななまえさんも可愛いですー!」
「わっ、危ないよ、沙織ちゃん!」

階段だということも気にせずに飛びかかってきた沙織ちゃんをなんとか受け止める。

そのまま下らない世間話に花を咲かせていれば、すぐにセスナのとまっている遺跡が目に入る。
うん、さすがお金持ち。自家用ジェットだなんて私には未知の領域だ。・・・本当に。

二人で遺跡の中に入れば、セスナのすぐ横に立っていたアイオリアさんがこちらに気づいて膝をついた。

「アテナ」
「アイオリア」
「日本までの護衛は獅子座のアイオリアが致します」
「ええ、ありがとう。では、なまえさん、わざわざ見送りありがとうございました」
「ううん、沙織ちゃんもアイオリアさんもお仕事頑張って!」

そう笑いかければ、二人とも笑みを浮かべて飛行機に乗り込んで行った。
扉が閉まったのを確認してセスナから距離を取る。セスナに撥ねられて死亡なんて嫌だからだ。



轟音とともに青い空に飛び立って、みるみるうちに小さくなっていくセスナを、見えなくなるまで眺める。セスナの横にイカ焼きの形の雲を発見して、セスナが空の彼方へ飛び立ってから、私は再び教皇宮に戻るために歩き始めた。






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