Episode 3


※ちょっと流血表現注意です。

↓Okay?






「きゃああああ!」


人魚姫の悲鳴が海界に響いた。


「・・・?」

まったく、寝転がってのんびりと本を読んでいたというのに、今の悲鳴で全て台無しだ。というより、本に集中し過ぎていて、そんな近くに人魚姫がいることにも気付かなかった自分を叱責しながら起き上る。そして遺跡から彼女のいるらしい方向を見れば、しゃがみこんだなまえと人魚姫が立っていた。人魚姫は傍目からでも分かるほどに狼狽している。



「落ちついて、テティス」

「もももも、申し訳ありません、なまえ様!ああ、どうしましょう!!だ、誰か!そう、誰か呼んできます!!」

「ゆっくりで良いからね?落ちついてね!?」

「すっ、すぐに帰ってきますー!!」


ばたばたと何度か転びそうになりながらかけて行ったテティスを心配そうに見つめていたなまえが溜め息をついたのが見えた。まったくあんなところにしゃがみこむなどあいつは何を考えているのだと近づいて理解する。転んだらしい。足が血まみれだ。


「なまえ」

「あ、カノン」

「何をしてた」

「え、えっと・・・」

「何をしていた!!」

「な、何をそんなに怒っているの?え、ちょ・・・いたっ!レディはもっと優しく扱うものよ、カノン!」


深く切れているらしい足の足首を掴めば、傷が痛んだらしいなまえが涙目になった。だがそんなことは知るか、怪我などするほうが悪いともう一度何をしていたのかと聞けば、なまえがぽつりと呟いた。


「わ、笑わない?」

「どうだかな」

「約束してくれなきゃ嫌よ」

「我儘を言っていないで話せ」

「・・・テティスとね、後ろ歩き鬼ごっこをしていたら転んだのよ」

「アホか。というより後ろ歩きをしていて転んだのに、何故怪我をしているのが脛なんだ」

「バランス取ろうと身体をひねったけどやっぱり失敗したわ」


へらりと笑ったなまえの頭を叩けば悲鳴を上げる。だがそれを無視して奴のポケットに突っ込まれていたハンカチを取り出す。


「切るぞ」

「ええ、それお気に入りなのに」

「ならこのままだ」

「切って良いわ!」


文句を言わずに最初から素直に聞いていればいいものを、と考えながら白いハンカチを裂いた。物凄く残念そうな顔をしているなまえの顔がちらりと見えた。なんだ、その顔は。まるで俺が悪い事をしているかのような顔をするな。なんで怪我の手当てをしてやるのに罪悪感を抱かねばならんのだ。


「いたっ!な、なんで叩いたの、今!?」

「そういう気分だった」

「愛が足りないわ!」

「寝ぼけたことぬかすとあと百発くらい追加するぞ」

「多すぎよ!愛が重い・・・、いたっ」


まったく騒がしい女だ。頭を再度叩いて黙らせてからハンカチを足に巻きつける。出血の割に傷は深くはないらしい。すでに血も止まりかけていた。これが大事になることはないだろう。


「消毒はきちんとしろ」

「うん」

「それから部屋に戻ったらちゃんとした包帯に変えろ」

「ふぁーい」

「気の抜けた返事をするな」

「はいはい」

「はいは一回だ」

「貴方、なんだかんだ言ってうるさい男ね」

「お前ほどじゃない。終わったぞ」

「いたい!」

「生きている証拠だ」


ぱしりと包帯部分を叩いて完成を告げれば、途端に涙目になったなまえを笑ってやる。なまえはそんな俺をしばらくじとっと見つめていたが、ふいに笑顔になって口を開いた。


「ありがとう、カノン!」

「別に」

「お礼にちゅーしてあげるわ」

「やめろ!」


飛びかかってきたなまえの頭を押さえこむ。まったく油断も隙もない奴だな。兎にも角にも止めろと再度言えば、しぶしぶ大人しくなったなまえから手を離す。


「あ・・・、テティスがきっと心配しているから行ってくるわ」

「ああ、戻ってくるなよ」

「素直じゃないのね」

「いや、俺ほど素直な人間も少ないぞ」

「大丈夫よ、ちゃんとすぐに帰ってきてあげるから!」

「・・・・」


本当に会話が通じない。本当に自分たちは同じ言語を話しているのかと不思議になるほどに会話が通じない。さっさと歩き始めたなまえに、引きつった顔をそのままに溜め息をつけば奴が振り返った。


「カノン」

「なんだ」

「本当にありがとね!」



それだけ言うと、すぐに前を向いて駆けだしたなまえはもう振り返らなかった。




海魔女と海龍
(耳に声が残る)

 

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