Episode 6


時は過ぎ、海界にも全ての海闘士が揃った。


もうすぐ俺の野望が叶う時が来ている、そう考えると笑いが止まらなかった。海上を見上げる。この狭い海の底からやがて出る時が来る。

見ているが良い、サガ。俺はいずれ聖域すらも落としてみせる。お前のような生ぬるいやり方では望みを叶えることなどできないということを、お前もいずれ理解する日がくるだろう。何事にも生ぬるいお前ではない。俺こそが、地上を支配するのにふさわ
「カノン!!!」

突然耳元で名前を呼ばれて顔を顰める。見れば、すぐよこになまえの顔があって、黒い目が俺を見つめていた。ああ、それにしても耳元で叫ばれたせいで耳が少し痛い。本当になんて迷惑な女だ。


「・・・耳元で騒ぐな、なまえ」

「だって、何度も名前を呼んでいるのに気がついてくれないから」


頬を膨らませて口を尖らせた馬鹿女に可愛くないぞと言えば、さらにぷりぷりと怒り始めた。が、そんなことは俺には関係ない。まったく人が輝かしい未来に思いをはせていたというのに、まったく邪魔な女だ。


「もう・・・。そんなにボーッとしているなんて珍しいわ。何を考えていたの?」

「お前には関係ない」

「あら、本当に?」

「ああ」


なまえがきょとんとした顔で俺を見る。なんだ、文句でもあるのかと見下ろせば、奴はにっこりとどこか作ったような笑みを浮かべた。



「嘘」

「・・・なんだと?」

「貴方が今、何を考えていたかあててあげましょうか」

「できるものならやってみろ」


どうせいつもの如く、私のことを考えていてくれたのねとか寝ぼけたことを抜かすに違いないと拳骨を準備して笑えば、なまえはさらに笑みを深くした。



「カノン」

「なんだ」

「あなたは海皇ポセイドン様を裏切り、海闘士たちを騙すだけではなく、利用までして地上を我が物にしようとしている愚者の夢物語を見ていたのでしょう?」


なまえが笑みを浮かべたまま言った。俺は、一瞬思考が固まり、そして次の瞬間怒涛のように押し寄せた疑問に再び思考を固めた。何故知っている?何故お前が?いけない、これは知られてはいけないことだ。だがなまえは知ってしまった。どうする?俺はどうするべきだ、いや、そんなことは決まっている。


「・・・なまえ」


拳をぎゅ、と握って名前を呼ぶ。思ったよりも低くなった声に、なまえがまた笑みを浮かべた。今度はいつものような頭の悪そうな笑みだった。


「・・・なんちゃってー!」

「は?」

「冗談よ、冗談!どうしてそんなに怖い顔をしているの?」

「・・・冗談?」

「そうよ?ほら、カノン、アイザックが探していたわ。だから私、貴方を呼びに来たの」

「おい、なまえ」

「なあに?」

「今の話」

「今の話?なんのことかしら!ふふ、私はこれからテティスと約束があるから、早くアイザックの所に行ってあげてね!待たせちゃ可哀想よ」


そう言ってなまえはぱたぱたと走り去ってしまった。対して俺は、立ち尽くしたまま。
なんちゃって?なんのことかしら?馬鹿言え、あれは冗談で言った顔ではなかった。そして冗談で的中したのではないと分かるほどに正確な内容だった。何故なまえにばれていたのか。何故なまえは笑っていたのか、

じっと、自分の掌を見つめる。

「・・・」

分からない。






俺はなぜ、あいつを殺さなかったのか。




何処からも漏れるはずのなかった情報をあいつは知っていた。何か俺たちの知らない能力でもあいつは持っているのだろうか。ならばそれは非常に都合の悪い事だ。そして絶対に俺の目的の障害になる。あいつが海界にいることを許した時に、俺は決めたではないか。邪魔をするようなら殺すと。いや、だが何もなまえが邪魔をするとは限らない。

「くそ」

なんて甘い!なんて馬鹿な話だ!
邪魔をするはずないから、殺さなくても良いだろう、だと?ふざけるな、障害になりえるものは先に除いておくべきだ。それは絶対で、嫌というほど理解しているのに、

何故、俺はあいつを、なまえを殺さなかったのだろうか。







わからない
(殺したくなかったなんて気のせいだ)

 

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