幸せの形は人それぞれのものだと思う。
私が幸せだと思うのなら、それは幸せだし、ヒュプノスが幸せだと思うのなら、それも幸せだと思う。
その形が違かったとしても、私たちがそれを幸せだと思うのなら、それは幸せなのだ。

私は彼の愛している人を演じる。それで彼が幸せなら、私も幸せだった。
彼が愛してくれるのなら、それでも構わないと思うし、そのためならなんだってやるつもりだ。
もう、私にとって彼はいなければならない人だったし、居なくなった時の事など恐ろしくて考えたくもない。けれど、大丈夫。だって彼は私をあいしていると言ってくれるから。だから私もあいしていると返すの。もしかしたら、これって物凄く下らない茶番なんじゃないかなって思うこともあるけれど、それでもヒュプノスの傍にいられれば良かった。


時々、考える。
ヒュプノスがいない時に限って、ふつりふつりと疑問が胸の中に湧き上がって、私の頭の中は不安でいっぱいになる。

私はここで何をしているんだろう。
どうしてここにいるんだろう?
会いたかった人がいた気がする。
帰るべきな気がする。どうして?
愛しているって、なに?彼を?私が?どうして?

「愛している」
「うん、私も愛しているわ、ヒュプノス」




本当に?




その恐ろしい疑問は、ヒュプノスが私のところに来てくれればすぐに消える。だから私は、あんなのは悪魔の囁きだと思って深く考えないようにする。多分、本当にそれは深く考えちゃいけないことなのだ。何故かって?それも多分考えちゃ駄目。考えないほうが、良い気がする。
あ、でも私が彼を愛しているのは事実だから、そんな馬鹿馬鹿しい事はあんまり気にしていないけれど。


そういえば、沙織が私の事を探している、と彼が言っていた気がする。彼女はまだ私の事を探しているのかな。だったら言わなきゃ。もう良いよって。私、ヒュプノスと一緒にいる。ここでずっとずーっと二人で生きて行く。
だってこの場所は外の世界みたいに汚い嘘なんてないもの(本当に?)
恐ろしい暴力も喧騒も憎しみも何もないわ、綺麗なものだけが揃っているの(多分、本当よ)
私はここが好きよ。ヒュプノスが好きよ、彼は私を守ってくれるから。地上に出たら、私はセイント、とかいう奴に殺されちゃうかもしれないみたいだから。だから私はここにいる。大好きな彼と一緒に。私は幸せよ。

「何を考えている」
「貴方の事よ」

そう返せば、彼は困ったような顔をした後穏やかな笑みを浮かべた。優しい顔、大好きな表情。
ねえ、好きなの。狂おしいほど貴方が愛おしい。

大切、
愛している、好き、大好き







私は、貴方が好き。

「愛している」

彼は私を愛している。




これこそが、最高の幸せの形だと、私は信じて疑わない。