沙織、助けて








「…なまえ?」

ふと、名前を呼ばれた気がした。
彼女の声だ!二週間前に突然姿を消してしまった私の友人の声

どこにいるの
つらい思いはしていませんか
一体誰が何の目的で貴女を連れて行ったの

疑問がふつふつと胸の奥で湧き上がったのをなんとか振り切って、小宇宙を探る。なまえがいなくなってから、もう何度もこうして彼女の小宇宙を探した。けれど、一度も成功することはなかったのだ。地上にいるのなら、絶対に見つけられるはずなのに。

「なまえ、」

もう一度名前を呼んで
お願いです、今度こそ見つけてみせるから

どこ?日本?アメリカ?ヨーロッパ?アジア?中東?アフリカ?違う、違う、


中国、イタリア、メキシコ、オーストラリア、ロシア、ポーランド、コスタリカ、カナダ、違う違う、すべて間違っている!





沙織、







「…!!」

みつけた


近くて遠い、この場所は



「――……冥界?」

まさか、なんで、どうして彼女が楽園に?誰が?ハーデス?まさか、あの男が彼女を連れ去る理由など皆目見当たらない。なまえさんはただの人だ。冥王が気にかけるような存在ではない。恋愛感情も、多分ないだろう。ハーデスには愛する妻がいる。ではタナトス?ハーデス以上に有り得ない。無駄に神としてのプライドだけが高いあの男が人間に恋することなどないだろう。恋以外もありえない。あの男はただの人間に興味など抱くまい。



では、
「ヒュプノス」

彼はとても落ち着いた優しさをもつ神だ。人間を浚って楽園に閉じ込めることなどしないはず。
それに、彼には確か妻が



どくり、と心臓が強く打った気がした。嫌な汗が出る。私は、アテナは彼の妻を知っていた。美と優雅を司っていた女神パシテア。
大神妃ヘラの娘。
けれど、優しい笑顔が印象的な女性だった彼女は確か、前前聖戦の時に命を落としていたはず。


だから、なまえさんとヒュプノスに関係などあるはずが、

「…ああ…」

パシテアの小宇宙、なまえさんの小宇宙。
何故今まで気がつかなかったのか
それはこんなにも完璧に一致しているというのに!




なんてこと、だろうか。