「うん?」

沙織ちゃんに紅茶を淹れるためにカップを温めていると、背後から沙織ちゃんの声がかかる。彼女は私が振り返るのも待たずに条件を告げた。が、その内容が、あまりにも予想外で私はつい聞き返す。沙織ちゃんは、それを不安に思ったのか眉を下げて、すみませんと呟いた。

「や、謝らないで!大丈夫だから。・・・で、なんだって?」
「あの、・・・一週間ほど、日本に御同行願いますか?」
「・・・は」

聞き間違いでは、なかったらしい。沙織ちゃんは大きな目をくりくりとさせて、私を見返してくる。

「えー、と?」
「いえ、その・・・、別段なにかあるというわけではないのですが、星矢たちがなまえさんに会いたがっていまして。そこに丁度私も日本に戻らなければならない用事ができたので、なまえさんも御一緒願いないかと・・・」
「日本、」
「こ、この間の誘拐もありますし、嫌でしたら断ってくださって構いませんが・・・」

なまえさんがいると落ちつきますし、きっと楽しいですからと、なんとも嬉しいことを言ってくれる沙織ちゃんに頬が上がる。

「だめ、ですか?」
「ううん、私でよければ一緒に行くよ」

紅茶を淹れて渡しながら言えば、彼女はほっとしたように笑うと、紅茶に口をつけた。

「出発はいつ?」
「明日の早朝です」
「・・・急だね」

別にかまわないがと苦笑しながら私も紅茶を飲む。
うん、今日の紅茶はラダマンティスさんのお土産だが、すごく香りの良い茶葉だ。きっと沙織ちゃんも気にいるだろう。あとで、サガさんにも持って行ってあげよう。

「あ」

そうだ。
サガさんだ。
あのワーカーホリックな彼は、書類を奪い取って強制的に眠るように指示しなければ何日でも徹夜をする。限界まで徹夜して、休憩時間まで書類を片手にしている、サガさん。あれでは休憩になっていないと思うのは私だけでないはずだ。

「・・・一週間・・・」
「どうかしましたか?」
「や・・・、うんー・・・」

さて、彼は私のいない一週間、ちゃんと睡眠を取ってくれるだろうか。あと、食事面も物凄く心配だ。

この間なんて星矢君が持ち込んだカップラーメンに涙を流して感動して、大量に購入していた。夜食代わりや、忙しいときに食べるとか言っていたが、私は知っている。食事作る時間を書類に当てたいとき、つまりほぼ毎日!彼がカップラーメンを食べる可能性があるということを!!

ああ、心配だ・・・!!
・・・や、でも侍女さんがいるし、大丈夫かな?夜はちゃんと眠るように言って、食事は侍女さんに頼む。ああ、完璧。なんだ、大丈夫じゃないか。たぶん。

「なまえさん?」
「・・・ううん、なんでもない」

そうと決まれば準備だ。

「じゃあ、私荷物をまとめてくるね」
「分かりました。ありがとうございます」

ふわりと微笑んだ沙織ちゃんに笑い返して部屋を後にする。

えーと、まずは洗面用具に、パジャマと、シャツ・・・。

・・・あ、サガさんにもお話しておこう。
部屋に戻るときに通りかかった執務室の前で、大きな扉を見て気づく。挨拶もなしに行くのは失礼だし、うん、よし。
そうと決まれば、早速レッツゴーだ、私。







第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -