「なまえ」

階段の途中で背後からそう声をかけられた。耳に心地いい低い声は彼のものだと笑みを浮かべて振り返れば、彼も微笑んだ。

「サガさん」
「なまえが見えたから走ってきたのだが・・・。これから下に降りるのか?」
「はい、サガさんは?」
「私もだ。一緒に行こうか」

それに頷けば、すぐに私の隣までやってきたサガさんは顔に苦笑いを浮かべた。

「まったく、とんでもない目にあった」
「なにかあったんですか?」
「いや、なまえを双児宮に招くと言った瞬間、まさか黄金に襲いかかられるとは思わなかった」
「襲われたんですか!?」
「アイオロスとミロ、それからムウとデスマスクだ」
「ムウさんまで・・・」

彼らは本当に騒ぐのが好きだなと言えば、サガさんは少し目を丸くして、なまえらしい考えだと苦笑いした。どういうことだ、わたしの予想は大外れだったのか?

「もし、なまえが不幸せになったり、泣いたりしたら今度は私が殺すとアイオロスに言われたぞ」
「うわあ、物騒ですね。ふふ、そうならないようにお願いしますね」
「ああ、全力で努力する」

くすくすと笑いを漏らせば、サガさんも少し笑みをこぼして、そしてふと足をとめて空を見上げた。そんな彼にならって、私も空を見上げる。

「・・・天気が良いな」
「本当ですね」

しばらくサガさんは空を見上げていたが、私に視線を戻すとすぐに真剣な顔になった。頬に手が添えられる。暖かくて大きなそれに私も手を重ねれば、サガさんはふ、と笑みを浮かべた。


「その、・・・絶対幸せに、する」
「ふふ、私もサガさんが幸せになれるように頑張ります」


その言葉に笑った彼が、額にキスをしてくれる。どこかこそばゆかったけど、私も彼の頬にキスを返してみれば、サガさんの頬が少し赤くなった。(多分、私はさらに赤い)




私もサガさんも、恋愛は上手なほうではないと思う。それは、多分私たち以外の、例えばデスマスクさんや沙織ちゃんに聞いてもそう言うのだと思う。だからこそ、ほんの些細なくだらないことですれ違ったこともあったし、なかなか一歩を踏み出すのが大変だ。でも、私たちはちゃんと進んでいけると思う。

私はサガさんが好きだ。今まで恋なんてろくにしてこなかったから、ちゃんと彼にそれを伝える方法がよく分からないし、サガさんを支えてあげることができるのかも分からない。でも、出来る限りのことをしようと思うのだ。彼のためならば。私は、ずっとここにいたわけではないから、彼が今までどれだけ苦労と悲しみと苦しみの中で生きてきたのか、想像することしかできない。それに、そういった重たいものを持ったサガさんのことを私みたいなただの小娘が本当の意味で支え切ることができるのかも分からない。でも、支えたいと思うのだ。

彼が好き、いや、愛している。だから私はこれからもずっとそばにいたい。サガさんの隣で笑っていたい。つらいことも苦しいことも一緒に経験して、前に進んでいきたい。

彼も、そうだと良いな、なんて。


「・・・」

ふわりと風が吹いて、私たちの間を駆け抜けて行く。さわさわと頬を撫でたその風に目を細めれば、サガさんが笑みを浮かべて口を開く。

「なまえ」
「はい、サガさん」

階段のわきの、名前も知らない白い花が風に揺られていた。





「Σ΄αγαπώ」
「・・・Έτσι κάνουμε Ι!」
(愛してる)
(私もです!)



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現代ギリシャ語に関してはあまり詳しくないので間違えているかもしれません。
なにはともあれ、双子座分岐にお付き合いいただき、本当にありがとうございました!!







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