「お手伝いしましょうか?」
「ありがとう、でも、これで最後だから」
「そうですか。うふふ、では今晩パーティなどは私に任せていただければ・・・」
「いやいや、何のパーティ?引っ越しパーティ?」
「お二人の婚約パーティです」
「話がすっ飛びすぎだよ、沙織ちゃん」

私たちは別に婚約したわけじゃない。というかどこから婚約なんて話が出てきたんだ。本当に機嫌が良いのか、にこにこと笑みを絶やさずに素っ頓狂なことを言ってくれる沙織ちゃんに苦笑して見せれば、彼女はさらに笑みを深くした。

「なまえさん」
「なあに、沙織ちゃん」
「本当に、おめでとうございます」
「・・・?うん、ありがとうね、沙織ちゃん!」

ふわりと微笑んだ沙織ちゃんに笑い返した瞬間、手の中の荷物が無くなった。驚いて前をみれば、いつの間にか氷河君が私の手から荷物を取り上げて悠々と歩き始めていた。その後ろを星矢君たちが続く。それを見て沙織ちゃんがまた笑みを浮かべた。

「え、だ、大丈夫だよ、私持つよ」
「なまえさんは女の人なんだから、こういうときは甘えてくれて良いんだよ!」
「うわっ、なにこの紳士!ごめんね、ありがとう、氷河君!」
「気にしないでくれ、なまえさん」


先に双児宮に運んでおくと言って駆けて行ってしまった彼らを見送り、私もそろそろ荷物の整理のために下に降りることにする。そんな私のことを、笑みを浮かべて見ていた沙織ちゃんが言った。

「本当は、ずっと心配だったのです」
「え?」
「サガは、あの通り奥手で不器用ですから。こうして良い結果を迎えることができて本当に私も幸せです」
「はは、色々心配かけてごめんね」
「ですが、まだ終わりではないでしょう?」

そう言った沙織ちゃんに頷く。今回はまた、新しいスタートをきると言うだけでこれが私たちのゴールなわけではないのだ。

「これからも応援していますよ」
「ありがとう!」
「行ってらっしゃい、なまえさん」
「うん、行ってきます、沙織ちゃん!」

思えば、この世界に来てから私の家となっていた教皇宮から離れることになるのだなと手を振ってくれた沙織ちゃんに手を振り返しながら宮を駆けだす。またいつでも訪れることのできる教皇宮はまるで実家だななんて考えて、神話の時代に続く由緒ある建物に少し失礼だっただろうかと苦笑する。だけど、今までの居心地の良かった家は今日から別の場所に変わる。新しい場所での生活が待っているのだ。けれど、きっとまた上手くやれるだろうと一度だけ教皇宮を振り返って、そして再び前を向いて私は歩きだした。







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