しまった、と思って一度口を噤む。相手がなまえだということを忘れていた。うっかり言葉の意味のまま流されるところだったと苦笑すれば、彼女が首を傾げた。


「サガさん?」
「なまえ」

小さな手を両手で包めば、そっと彼女が空いていた手を添えてくれる。それに笑みを浮かべながら名前を呼べば、なまえがどこか神妙な面持ちで頷いた。


「はい」
「一緒に暮さないか?」


なまえが目を見開いて、がたりと机にぶつかった。その勢いでティーカップが床に落ちて紅茶が周囲に飛び散る。
カップが割れることはなかったようだが、床は紅茶で大洪水だ。だがなまえはそれすら気にせずに唖然とした顔で私を見る。


「・・・はい?すみません、アテネってこの時間耳鼻科とかまだ開いていますか、ちょっと耳がおかしいんですが」
「・・・一緒に暮らそうと言っただけなのだが、私はそんなにもおかしなことをいっただろうか?」
「え、それ、あれ?え?」

あっという間に耳まで真っ赤になったなまえに、普段なら微笑みたいところだが、今の私にそんな余裕はない。女神が聖域に乗り込んできた時と同じくらい緊張しているかもしれない、なんて(馬鹿馬鹿しいだろうか)

「なまえ、結婚を前提に、私と付き合って・・・」
「や、もう付き合ってます」

咳払いをして話を続けようとすれば、彼女に冷静に切り返されてしまった。もはや余計な言葉など必要ないらしい。腹をくくってはっきりと告げるべきだ。


「・・・同棲、しないか」

なまえの目が揺れた。と思った瞬間に、何故か泣きだされた。

「なまえ!?す、すまない、泣くほど嫌だったとは」
「ばっ、馬鹿ですか!嫌じゃないですよ!!」
「馬鹿・・・」
「あ、す、すみませ・・・!いや、ただび、びっくり、して・・・」
「すまな、なまえ?」

謝りかけた瞬間に彼女に飛びかかられる。落としてしまわぬように慌てて受け止めれば首に彼女の細い腕が回された。


「あと、嬉しくて」


ふと見えた彼女の耳は真っ赤になっていて、それにようやく微笑みが零れる。

「そうか」
「サガさん、私みたいのがお邪魔しても良いんですか?」
「なまえだからこそだ」

肩に手を置いて目線を合わせた彼女にそう言えば、なまえは一瞬驚いたように目を丸くしたが、すぐに笑顔になった。

「なまえ、答えは?」
「知ってますか、サガさん!」

その答えはもちろんオーケーだと一万年と二千年前から決まっていたんですよ!そうよく分からないことを言って、もう一度笑ったなまえに口づけた。途端に真っ赤になった彼女が、ぎゅうと抱きついてきたのに笑いながら、私もそっと抱きしめ返した。




星が瞬いていた
(彼女の笑顔が嬉しかった)

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本気!・・・本気、・・・本気?

なんかロス兄に比べてこっちの分岐は恋愛色が少ない気が・・・?気のせい・・・ではないですね実にすみません。次で終わりです。






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