「・・・あれ」

よし寝よう。今日こそ早く寝よう。そう考えて、シャワーを浴びて、髪を乾かし、歯磨きをしてスウェットを着て。よしもう眠れる、これで準備は完璧だとカーテンを閉じようとしたとき、執務室から洩れる光が目に入ってしまった。どうやら今晩もサガさんは絶賛仕事中の様だ。時計はすでに12時を指している。時間外業務もほどほどにしないと、労働基準法のろの字もない聖域ではいつか本当に倒れてしまう。けれど、確か今日は書類の数は少なかったはずだ。なら、手伝いに行ってさっさと終わらせて、早めに休んでもらおうと部屋を出て執務室に向かった。




「うん?」

だが、扉を開けた先にいつも彼が座っている席は空席で、明かりだけが煌々と灯っている。誰かが明かりをつけ忘れたまま部屋を出てしまったのだろうか。だとしたら気付いてよかったと明かりを消そうとした瞬間にソファに散らばる金髪に気がついた。



「・・・サガさん?」


何故ソファで寝ているんだ、この人は。


机の上の書類はどうやら片付いているようだ。恐らく、仕事が終わって、ソファに腰掛けて、気が抜けた瞬間に睡魔が押し寄せてそのまま眠ってしまったのだろうか。できればちゃんと寝台を使ってもらいたいが、せっかく眠っているのを起こすのも忍びない。だが最近は大分涼しくなってきたし、夜ともなれば、さらに冷え込む。せめて風邪をひかないようにシーツでもかけてやろうと一度執務室を出てシーツを持って戻る。

「・・・よし、」

シーツをぱさりとかけてやって、綺麗な髪を一度梳く。窓も閉めたし、風邪をひくことはないだろう。さて、ではわたしは部屋に戻ろうかと思った瞬間腕を掴まれた。

「ひっ!」
「・・・なまえ?」
「あ、び、びっくりした・・・!」

思い切り掴まれたから幽霊かと思ったぞ、ちくしょー。サガさんで良かったと、そう一息をついてから、うっすらと見えた蒼の目に笑いかける。

「・・・なまえ・・・?」
「サガさん、目が覚めましたか」

これなら宮にもどって、ちゃんと休んでもらえるなと笑みがこぼれて、そのまま髪を梳いてやれば彼が目を細めた。あ、なんか可愛い・・・!


「・・・なまえ」
「はい。紅茶でも淹れましょうか」
「なまえ」
「は、え?」


ぐい、と手を引かれた。視界が暗転。灰色の天井が目にはいった。いや、意味が分からない。どうしてこうなった。なんでサガさんに押し倒されているんだ。意味が分からない。


「え、ちょ、サ、サガさん?あの、色々と頂けない状況と言うのはよく分かるんですが、とりあえず貴方寝ぼけているでしょう!!」
「寝ぼけている、・・・ああ、寝ぼけている」
「ちょ、しっかりしてくださいよ、サガさん!!うえっ」

ずしっと重み。

そしてすぐさま聞こえた、すう、という寝息。まさか、いや本当にまさかだが。この態勢で眠られてしまったのか。このまま圧死なんて結末は是非遠慮したいのだが、彼は起きる気配なし、だ。

「サ、サガさーん・・・?」

軽くぱしぱしと背中を叩いてみるが、返事無し。寝息が耳元で聞こえると言うことは爆睡中ということだろうか。


「どうしよう・・・」


実に重い。というか重すぎる。もはや若干痛いのだが、どうしてくれようか。
だけど顔をふと横にずらして見えたのは、濃い隈で。こんなになるまで頑張っていたのなら、別に潰されてベッド代わりにされても彼が休めるのなら良いかな、なんて考えてしまう私は相当毒されている。とりあえず今一番重要な問題と言えば、あれだ。




彼が起きるまで私はつぶれないでいられるだろうか
(目が覚めた彼に物凄い勢いで謝られるまで後数時間)







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