かさりとサガさんが新聞を広げた音が静かな部屋に響いた。開け放たれた窓からは、爽やかな風が吹き込みカーテンを揺らした。そのまま紅茶から立ち上る白い湯気を揺らした風がサガさんの綺麗な髪をさらりとさらう。

「どうかしたか、なまえ?」

それを横目で見ながら、こてりと彼の肩に頭を預けれ見ればサガさんは新聞を閉じてこちらを見る。大きな手が髪の毛を梳いてくれるのが心地良い。

「そんな気分だったんです」
「そうか」
「サガさん、お昼ご飯は何にしましょう」
「たまには私が作ろうか」
「でも、サガさん疲れているでしょう」
「そんなことはない」
「…んー、じゃあ、一緒に作りましょう」

そう言えば、サガさんが微笑む。夏で、暑いはずなのにそんなことを微塵も感じさせないその笑顔にさらにくっついてみたくもなったが、それは恥ずかしいので止めておく。サガさんはまだ、わたしの髪を梳いてくれている。

「ドルマダキア…、は昼から食べるには重いか?」
「そう、ですね・・・。タラモサラタでどうです?」
「ああ、それが良い。それなら作るのに時間はかからないからまだゆっくりしていられるな」
「ふふ、サガさんがその台詞を言うのはなんだか不思議です」

いつも書類書類任務任務のサガさんがそんなことを言ったと知ったら皆さんびっくり仰天ですよと言えば、サガさんは頬をかいた。

「そんなに仕事ばかりしているつもりはないのだが」
「いやいや、仕事しまくりですよ」
「そうだろうか」
「そうです」

だからたまには、こうやってのんびりしたほうが肉体的にも精神的にも良いだろうと言えば彼はまた笑った。

「では昼食まで久々にのんびりとしてみようか」
「シエスタですか?」
「シエスタにはまだ早いが・・・、まあ問題はない」
「フリーダムですね」
「フリーダムだな」

きっちりと机の上の目覚まし時計を一時間後にセットすると、サガさんはもう一度わたしの髪を撫でた。

「おやすみ、なまえ」
「おやすみなさい、サガさん」
「どちらが先に眠れるか競争しようか」
「望むところです。負けたほうがアフタヌーンティーの準備をするってことでどうですか?」
「ああ、構わない」

ふわりと風が吹いた。夏の午前中にしては、些か今日は涼しい日。これならすぐに眠れるだろうと、サガさんと二人でソファに深く腰掛けて目を瞑った。



おだやかに、たおやかに



「・・・えっと、・・・なまえさんとサガはなにを、なさっている、のですか?これがお二人のお部屋デートですか?」
「そのようですね、アテナ」

信じられない。本当に信じられない。扉の陰から見えるのは、ソファで眠りこける二人だ。これが若き恋人のデートの風景なのか。大切なことなので何度でも言うが、もう一度信じられないと呟けばカノンが肩をすくめた。

「あの二人にはいつものことです」
「ま、まだ年若いというのに、あんな熟年老夫婦のようなお付き合い・・・!」
「・・・相手があのサガですから」

それにしても、二人が部屋で二人きりと聞いて少しばかり期待しながら双児宮までおりて来たのだが、成程あの二人は予想の斜め上をいってくれる。まさか誰もあの二人のデートが昼寝だとは思ってもいなかっただろう。二人らしいと言えば、そうなのかもしれないが、それにしてももう少し、と思いもする。だが、あの触る触らないと喧嘩をしていたころに比べれば、二人並んで昼寝など中々親密になってきているのではないかと、カノンと二人微笑を浮かべて扉を閉めた。







(穏やかな日差しが二人を包んでいた)






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