「よし、テティス、帰るぞ」 「はい、海馬様!」 「ぎゃー!サガさん、助けてー!人攫いですー!!」 「なんだと!許さん!!銀河の散りとなって消えよ、海馬!!」 「落ちつかぬか、馬鹿者が」 「うっ、シオン様!」 「シオンさん!」 ギャラクシアンエクスプロージョンの構えを取ったサガさんに、これはバイアンさんに抱えられている私も一緒に消滅するパターンじゃないかと恐怖を抱いた時、知らない男の人と現れたシオンさんが彼の頭を叩いた。 その男性を見て、バイアンさんとテティスちゃんが嬉しそうに名前を呼んだ。 「ポセイドン様!」 「ポセイドン?」 「なまえ、彼は海界の長だ。アテナや冥王とも親族にあらせられる」 聞いたことのある名前だと首を傾げれば、彼の隣に立っていたシオンさんが説明をしてくれる。ええと、それはつまり? 「えーと・・・、ギリシャ神話で竈の女神様にアタックして振られたり、アポロンさんと一緒にゼウスさんに逆らって罰としてトロイアの城壁造りの雑用をしたりしていた、あの勇気いっぱいの海皇ポセイドンですか」 「なるほど、海の藻屑になるのがお前の夢か」 「すみませんすみません、冗談です!!」 頬を引き攣らせた彼から発せられるオーラに逃げようとするが、あいにく今はバイアンさんの肩に担ぎあげられているためそれは叶わなかった。 「ポセイドン様、こいつ面白いので海界に持って行きましょう!」 「私も賛成です、ポセイドン様!なまえを皆さんのお土産にして帰りましょう!」 「なんで私物扱いなんですか、泣いて良いですか」 「いらん。鮫の餌にでもしておけ」 「怖っ!!嫌ですよ、そんな死に方!!」 ぷいっとソッポを向いたポセイドンさんの台詞に激しい恐怖を覚えながら、そんな場所に連れて行かれてたまるかとじたばたと暴れる。バイアンさんがそれを諌めるように声を発したが無視だ。無視無視。鮫の餌なんてごめんだ。 そんな私を見かねたのかシオンさんが救いだしてサガさんに渡してくれる。エフハリスト、シオンさん。これで私の安全が確保されました。 「海界って綺麗なイメージだったんですけど、実際は怖い所なんですね」 鮫の餌って・・・と呟くと、サガさんが笑った。 「フッ・・・、愚弟の統治の限界だな」 「え、カノンさんのせいなんですか」 なんでそうなったとサガさんを見上げれば、シオンさんが私の腕時計に目をやり、口を開いた。 「なまえ、そろそろアテナのティータイムだ」 「え、やばい!失礼しますね!」 慌てて時計を確認すれば、たしかにぎりぎりの時間だ。沙織ちゃんはあれで時間にとてもきっちりしているから、ティータイムの準備を急がなければと、その場にいた人たちに頭を下げて去ろうとすればテティスちゃんが私を見た。 「そんな!なまえ、私たちと行きましょう!」 「鮫の餌にはなりたくないので遠慮します!!」 私のイメージは海底に白い神殿があり、天上から差し込む光が海水で屈折して光のカーテンをたくさんつくる・・・そんな美しい場所だったのだが。鮫の餌につかわれる可能性があるあたり、もしかしたら血みどろの恐ろしい場所なのかもしれない。残念そうな顔のテティスちゃんに断りを入れて、沙織ちゃんのもとへと駆けだす、ところで足を止める。 そういえば、あの可愛い可愛い海豚は神話ではポセイドンさんが作ったものではなかったか? 実を言うと私は海豚が大好きだ。あの目、あの色!あの形!!全てが完璧すぎるくらいに可愛いではないか!しかもあの鳴き声も・・・、まさに海のエンジェル!それを作ってくれたなんてポセイドンさん最高! 「ポセイドンさん!」 「なんだ、豚」 「豚!?ひどくないですか!!?」 「早く用件をいえ、のろま」 「の、のろま・・・!!」 しまいには私もキレるぞ。なまえちゃんスーパーキックをお見舞いしちゃうぞ!!その綺麗な顔面陥没させてやる!!と、意気込みかけたが、時間もないし用件も決まっているのだからと、彼に向き直った。 「イルカを作ってくれてありがとうございます!!」 おまけに投げキッスをつけてみた。教皇宮へ向けて駆けだす前に見えた、バイアンさんが顔を引き攣らせた。なんだよ、キモかったのか?悲しいことになまえちゃん、そろそろそんな扱いにもなれちゃいそうだぞ!ああ、一週間くらい実家に帰ろうか・・・。あれ、帰り方分からない。というか、帰ってももう母さんは私のことが分からないんだったか?うわぁ、それは立ち直れないわ。・・・やっぱり聖域で頑張ります、母さん。アディオー。 見上げた教皇宮の上にある空は、今日も青かった。 「ふむ・・・」 顎に手をあてて、なにかを考えこんだ様子のポセイドンの顔を人魚姫が覗きこんだ。 「どうされましたか、ポセイドン様?」 「確かに面白い小娘だ」 見えなくなったなまえの去って行ったほうを眺めてにやりと笑みを浮かべた海皇に人魚姫が顔を輝かせた。 「ではなまえも一緒に海界へ!」 一体このなまえが何をして人魚姫にここまで心ひかせたのか私としては分かりかねたが、彼女を連れていくというのはできない相談だ。シオン様も同じことを考えていたのか、にこにこと笑う人魚姫と海馬と海皇に向けて口を開いた。 「あれを連れていくのなら、我らの待ち構える十二宮を見事突破してアテナの壷を持った女神と一戦交えて勝利しなければ許されぬ」 そして数日後私は大量に届いた荷物に困惑するのだった。 (あの、沙織ちゃん・・・、ポセイドンさんから大量に海産物が送られてきたんだけど) (ふふ・・・、贈り物はあの男の得意技ですからね) (ええー・・・。技って、私なんかしたかなー・・・?) |