「では、貴方がカノンさまのお兄さまと恋仲のなまえさん?」
「なんでそんなこと知っているんですか!」

快く通してくれたムウさんやアルデバランさんにお礼をいって十二宮の階段を上る。
何故私とサガさんのことを今日はじめて出会った彼女が知っているのだと、立ち止まれば、彼女も立ち止まってくすくすと笑った。

「カノン様がよく話しておられましたよ」
「・・・なんか恥ずかしいから内容は聞かないよ」

一体海界で何を話していたんだ、カノンさん・・・。だが、たぶん彼のことだ。変なことしか話していないに違いない。例えば私が石鹸で滑って転んで水風呂に落ちた、とか。例えば私がムウさんの作ったゴールドシャドウ入りコーヒーを金箔付きと勘違いしてちょっと飲んでしまったこととか。・・・あれ、私ってもしかして馬鹿だったのか?皆さんが言っていたのは事実だったんじゃないか?思い返してみても、頭の良いことなど一度もしていない気がする。


「・・・私って馬鹿だったんだ」
「テティス!」
「あっ、海馬様!申し訳ありません!」

驚愕の事実にうなだれた瞬間に、聞き覚えのない声がして、双児宮を見上げればサガさんとともに金色の鎧をまとった青年がこちらを見下ろしていた。テティスちゃんはそれを見ると慌てて彼の元へ上っていく。なるほど、あれがお仲間さんか。会えてよかった。

「どこに行っていたんだ!」
「も、申し訳ありません!お花が綺麗で・・・!」
「気をつけろよ。探したぞ」
「はい!」
「・・・そいつは?」

私を見ながら青年が言った言葉にサガさんが口を開きかけたが、それよりも早くテティスちゃんが笑顔で答えた。

「はいっ!ここまで私を連れてきて下さったのです!あの、カノン様がいつも話している・・・」
「ああ、あの双子座使いで、さらに聖域で唯一射手座を馬に出来る可能性のあるというあの女か」

カノンさん!!あの人はなんてことを言っているんだ!!双子座使いってなんだ、それは!!なんか、私がものすごく強そうに聞こえるぞ!それかエジプトとかのコブラ使いみたいな・・・。・・・私がサガさんを操る・・・。・・・なにか後が怖いから遠慮しておこう。しかもアイオロスさんを馬に出来る可能性のある女ってどういう意味だ。意味が分からない。私は魔法使いか。それとも沙織ちゃんと邪武君のように彼を馬にしろと?そんな恐れ多いこと・・・。

絶対にできるものかと考えていると、その男性はフッと笑い私を見た。

「・・・まあ、そんなことはどうでもいい。うちの人魚姫が悪かったな」
「いえ」
「俺は海馬のバイアン」
「私はなまえです。よろしくお願いします」

双児宮まで登りきった私に彼がふっと笑って言った。それに笑みを返せば、テティスちゃんが私の腕に抱きついた。

「なまえ、優しいんですよ!」
「面白いの間違いじゃないのか」

まだ出会って間もない彼がこんなことを言うのは、きっと恐らくカノンさんがあることないこと吹き込んでくれたおかげだろうな、と今頃何処にいるのかも分からないサガさんの弟を恨めしく思った。

見れば、サガさんも苦々しい顔をしていて、彼も恐らくあることないこと海界でカノンさんに吹聴されたのだろうと理解する。

「あとで奴には説教だな」
「是非その際には参加させてください。せめてもうちょっとマシな紹介をして頂きたいですね」
「私なぞ、素っ裸で聖衣を纏うのが趣味だと吹聴された」
「・・・カノンさん、反抗期かなんかなんですか?」
「奴の頭の中が水族館なだけだ」
「いや、サガさん、それは意味がわからないです」

溜め息をつきながら訳の分からない台詞を吐いたサガさんに苦笑する。彼もそうとう疲れているようだ。


「こうなったら、こうしましょう。サガさんの幻魔拳で、カノンさんを操って、ロドリオ村の広場の村名の書いてある看板の前で村人さんに、ロドリオ村ってどこですか?って聞かせましょう。それか、“楽しくなると、ついやっちゃうんだ!”のファストフード店で、ベーコンレタスバーガーのベーコンとレタスを抜いたものを注文してもらいましょう」
「随分とささやかだが、地味に恥ずかしい嫌がらせだな」

サガさんが絶対に自分はやりたくないと顔を顰めたのをみて、このぶんならば双子のカノンさんもきっと嫌がって心を改めてくれるだろうと一人納得した瞬間、バイアンさんが目を丸くして呟いた。

「・・・あの男にそんなことをしようと思うなんて、お前、面白いな、本当に」
「それは褒めているんですか」
「俺なんて、前にからかってパパって呼んだら殺されかけたぜ」
「一体なにをどうしてそう呼ぼうと思ったのかは、あえて聞かないで起きますね」

そう息をつけば、バイアンさんはしばらく沈黙して私を見ていたが、ふいに頷くとテティスちゃんを振り返った。

「よし、テティス、俺は決めたぞ」
「ええ、私も決めました、海馬様!」

ああ、どこかでこんな台詞を聞いた気がする。冥界でか。初めて冥界に行った時、金髪おにーさんと銀髪おにーさんに、少し違うがよく似た台詞を言われたのだったと思いだし、一抹の不安を覚えて二人を見る。


「お前、海界に来い」
「ひゃあ!」

何故俵持ちなんだと愚痴を言いたくなる。スカートでないからいいものの、スカートだったらばっちり私のパンツが皆に見えちゃうぞ!そしたら皆の目に150000のダメージだ。瞬殺攻撃だぞ。もちろん悪い意味で、だ!あれ、毎度のことながら自分で言っていて悲しくなってきたぞ!おかしいな!


バイアンさんはそんな私を見向きもせずにのしのしと歩みを進める。










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