そういえば、シュラさんが少し嬉しそうにサッカーボールを持って行ったなと思い出す。さすがスペイン出身。英国に無敵艦隊(笑)と皮肉られようとサッカーが好きなんだなと考えた記憶が・・・。

「あれ、でもサッカーだとしたら、試合時間ってまだ終わってないですよね?」
「いや、強制終了だ」
「え、なんでですか」

溜め息をひとつついてアイオロスさんを見たサガさんに首を傾げれば、アイオロスさんがへらりと笑った。

「私は悪くない。ボールが悪い」

その台詞で、だいたい分かった気がする。

「分かった!アイオロスがボールを割ったんだろ!」
「その通りだ、星矢」

ああ、やっぱり。
恐らくサッカーボールを蹴っ飛ばしたのは良いが、ボールがその力に耐えきれなくて木端微塵になったのだろうとボールを悼む。
だが、そこでまた疑問が浮上してくる。確か沙織ちゃんがサッカーボールを大量に持ってきていた気がするのだが。

「ほとんどこいつが割った。たまにシュラが力み過ぎて斬ったり」
「力み過ぎると斬れるんですか!?」
「キーパーのカミュがボールを凍らせたり」
「反則ですね、それ!」
「そんなこと言って、サガだってボールを割っただろう」
「ぐっ・・・」

アイオロスさんに突っ込まれて言葉を詰まらせたサガさんに笑みが漏れる。
うん。和やかな雰囲気でたまにはこういうのもいいじゃないかと思う。沙織ちゃんグッジョブだ。なんて思った瞬間、珍しくアルデバランさんの焦ったような声が響いた。

「星矢、危ない!!」
「え」
「・・・ん!」
「あらあら、まあまあ・・・」

バコッという鈍い音と共に目の前が暗くなり、何かに押し倒されてそのまま背後に倒れこむ。沙織ちゃんの楽しそうな声が響いた。一体何事だと目を開ければ、目の前に星矢君の顔。




星矢君の顔?

「・・・んっ・・・!?」
「んぅ・・・」


神様。



神様、唇に触れる柔らかな感触はなんでしょうか。




「せ、星矢!大丈夫!!?」

瞬君が引きはがした星矢君は目を点にしていた。

「・・・星矢君、御愁傷さま」

アルデバランさんのほうを見れば、デスマスクさんがやっちまったぜ、な顔をしてバッドを投げてこちらに歩み寄ってくる。
ああ、どうやら、デスマスクさんの打った球が星矢君の後頭部に直撃したらしい。そして、そのまま一瞬意識を失って倒れこんできた彼は私に直撃したと。それでキスをしてしまったと。なんてことだ。まだ星矢君は中学生なのに可哀想なことをしてしまった。彼女とかいるのか?まだ初ちゅーがまだだったら私がとっちゃったことになるのか?ごめんよ、星矢君のお相手のお譲さん。

「星矢君?」

未だ固まったままの彼に、やっぱりショックだったのだろうかと顔を覗きこめば、彼はよく日に焼けた小麦色の肌をぼっと真っ赤にさせた。

「わ、ご、ごめん、なまえさん!!」
「いや、むしろ相手が私でごめんね」

わたわたと両手をあげさげしながら謝る星矢君に初々しさを感じながらも、なんだか申し訳なくなる。
本当、私が初ちゅーの相手でないことを祈っておこう。私が相手とか星矢君が不憫すぎる。こんなに可愛くてモテそうなのに・・・。


「大丈夫ですか、なまえさん?」
「うん、大丈夫だよ」
「髪に土がついていますわ」

手を伸ばして取ってくれた沙織ちゃんにお礼を言って椅子に座り直す。
デスマスクさんはへらへらと笑いながら星矢君の後頭部を撫でくりまわしていた。

「いてっ!いてえって!なにするんだよ、デスマスク!!流星拳を喰らいたいのか!?」
「ああん?悪かったって言っているだろ!お前こそ聖闘士がたかだか野球玉一つですっ転んでんなよな」
「それが人にボールを当てたやつの台詞かよ!」

がしがしと頭をかきまわすデスマスクさんから星矢君が逃げ出したのを微笑ましく眺めていると、星矢君はそのままサガさんにぶつかって立ち止まった。彼は今日色々なものにぶつかる日だな、なんて眺めているとサガさんが星矢君の頭を鷲掴む。


「・・・星矢」
「ひっ!サ、サガ!!」
「お前の望みは異次元旅行か?星の砕ける様の見学か?好きなほうを選ばせてやろう」
「ど、どっちも嫌だって!!」

彼の手を振り切って逃げる星矢君を追いかけまわすサガさんを眺めながら沙織ちゃんと瞬君が笑い合った。

「あらあら、サガったら・・・」
「大人げないね」
「うふふ、嫉妬だなんて可愛いではないですか。自分より13も年下の少年に・・・」

一体なんだろうと眺めているとアイオロスさんと氷河君と紫龍君がハンカチを差し出してくる。なんだと思いながらも受け取ると、アイオロスさんが良い笑顔で言った。

「早いうちに拭いてしまいなさい」
「気持ち悪いだろう」
「消毒液を持って来ましょうか」
「貴方達は星矢君を一体なんだと思って・・・」

普段はあんなに仲がいいのに、と息をつくとアイオロスさんがああそうだと笑って私の背後から持ち上げてきた。そんな彼に慌てて手足をばたつかせるが、すでに足は地から離れており何の意味もなかった。

「なに、なにするんですか、アイオロスさん!下ろしてください!!」
「サガ、ちょっと」

私の抵抗など彼には些細なものなのか、まったく気にした様子もなくそのままサガさんの傍まで連れていかれる。彼の背後まで来たところで、アイオロスさんが実に楽しそうな声で彼を呼ぶとともに、私の体を前に差し出した。

「なんだ、アイオロ・・・んむ!」
「・・・・っ!!!!!」

それはもう、ちょうどぴったり、私の顔が彼の顔にあたる距離と高さに。

つまり、あれだ。


昨日に引き続き、私は彼とキ、キスをしたということに、なり。
アイオロスさんの楽しそうな声が競技場に響いた。

「消毒液をとってくるより早いだろう?」
「・・・・・アイオロスさん、貴方という人は!!!」
「アイオロス!!お前という男は!!」
「さて、それじゃあ私はちぎれたサッカーボールの片付けに行ってくるよ。アディオ!」
「待たんか、この愚か者が!!」

ばたばたと駆けて行ったアイオロスさんをサガさんとともに追いかける。
途中であまりに早すぎる彼らについていくことを諦めて、私は追いかけるのを止めたのだが。




平和な日も何か問題が起きる聖域より中継いたします
(青春ですね)
(サガはもう青春の年じゃないだろ)
(・・・ぎりぎり、セーフですわ、たぶん)









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