まだ時間は早い。 午前。 訪れた双児宮は妙に静まり返っていて、私はもしや留守なのではと少しばかりの不安に襲われる。 「サガさん?」 神殿のような双児宮の中を通って行き、プライベートの空間の入口に訪れる。少し開いていた扉の隙間からなかを覗くが、カーテンを閉められているせいで薄暗く、よく分からない。やっぱり彼は留守なのかもしれない。勝手に入り込むのは失礼だし、さてどうしたものかと思っていたら、突然背後から声がかかり心臓が飛び上がる気分を味わった。 「なにをしている?」 「ぎゃー!!ぎゃー!!!ごめんなさいごめんなさい別に泥棒じゃないですよごめんなさい助けてぎゃー!」 「な、ま・・・、お、おちつきなさい、なまえ」 「わーっ!!・・・って、サガさん?」 「そうだ」 慌てて振り返れば、少しばかり驚いた顔で私を見るサガさんが立っていた。いや、実に驚いた。突然薄暗い中後ろから肩を叩かれたものだから、何かホラーな展開を勝手に想像してしまった。 「どうかしたのか?」 そうだった。私はここにホラー体験をしにきたわけではない。私は、サガさんに想いを告げるべく、ここに来たのではないのか。 「あ、えっと・・・」 「・・・?」 「あのっ!・・・えー・・・と・・・」 訝しげに私を見るサガさんに頭を抱えたくなる。良く考えたら、私は人に告白するなんてこと初めてじゃないか。しかも、その初めての相手がサガさんというのは、かなりハードルが高くないか?というより、こういうときはなんて言えばいいんだろうか?はっきり言っていいのだろうか? (好きです!) それでは可愛げがない・・・? (結婚してください!) 話が飛躍しすぎだ。 (私とどうですか) なにがどうなんだ。 (お付き合い願いとうございます) 誰だ。 いや、だとしたらどうすれば?あああ、こんなことなら、もっと少女漫画とか恋愛小説とかドラマとか見ておくのだった! まったくどうすればいいか、分からない!いや、もう当たって砕けろだ。そうだ、砕けよう、わたし!! 「サガさん!」 「どうした?」 「今日は寒いですね!」 「そうだな。雪が降るかもしれないと朝方カノンが言っていたな」 「雪・・・」 雪合戦とかしたらきっと楽しいだろうな。・・・いや、彼らに交じって雪合戦など死んでしまう。何しろ合戦なのだから、きっと情け容赦ない光速の雪玉が飛び交うのだろう。謹んで辞退させて頂きたい。 「ってそうじゃない!!そうじゃないよ、私!!」 「なまえ、大丈夫か?調子が悪いのか?」 「違います・・・、元気ですよ、私は!・・・あのですね、サガさん」 背の高い彼を見上げれば、僅かに微笑みながら私の言葉を待っていてくれる。 そんな些細な優しさにも、なにかほわんと胸が暖かくなる気がするのだから不思議だ。 「・・・私は、皆に馬鹿だ馬鹿だって言われていますし、実際そんなに頭も良くないです」 「?」 実に気に入らないのだが事実なのだから仕方がない。 「顔も、聖域の女官さんとか、沙織ちゃんに比べたらランキング圏外に常駐しています」 「そんなことはないだろう」 お世辞でも優しい言葉をサンキュー、サガさん。 「しかも、毎回毎回迷惑ばっかりかけちゃっていますけど」 「なまえ、迷惑だなんて思ったことは一度も」 「それでも私はサガさんが好きなんです」 「思ってな、・・・え?」 何故か聞き返された。 一世一代の告白を、全魂を注いで紡いだ告白を、聞き返された。しかも、え?って・・・。 「すまない、なまえ。耳の調子が悪いみたいだ・・・。こんなにも都合のいい幻聴が聞こえるわけがない。そうだ、私の幻覚などWho are you?とかWho am I?とかそんなのばかりで・・・」 「な、なんのお話ですか、サガさん?」 突然顔をそむけて、何か哀愁を漂わせ始めたサガさんの顔を覗きこむ。しばらく何かブツブツとつぶやいていたサガさんは、私を見て、少し悲しげに笑った。 「いや、幻聴でも構わない。それでも私は十分幸せだった。ありがとう、なまえ」 「一体全体なんのお話でしょうか」 「お前がどう思っていても、それでも私はなまえを愛しているのだから」 「え?」 今度は私が聞き返す番だ。 彼は一体なんと言った?私を愛している?いや、一体なんの幻聴だ。あり得ないって。自分に都合よく解釈をし過ぎた結果だな、なるほど納得だ。 「そうですよねー!まあ、私の幻聴は幻聴じゃなかったけど!死ね死ね言われ続けるようなやつだったけど!」 「一体なんの話だ、なまえ?」 くそう、なにも知らないような顔のサガさんが今ばかりは憎い・・・! 私は、私はこんなにも、 「サガさんのことが大好きなのにー!!!!」 彼が私のことをなんとも思っていないなんて、かなり悲しいぞちくしょー! 「・・・は」 「サガさんの恋泥棒!百戦錬磨!黄金聖闘士!」 「なまえ、い、今のは・・・、ほんとう、なのか?」 「そうです本当です大好きです!」 「こ、これが・・・女神の奇跡・・・!!!!」 「は?・・・え、ちょ・・・!サガさん!?サガさああん!!!!いやーっ、誰かー!!」 何故か倒れられた。 (Still, start a new everyday!) |