「お前ら、俺を苛めるのがそんなに楽しいか?」 「そんなことはない。少し不憫な蟹男だって思っただけさ。ねえ、なまえ?」 「ええ、そうですよね、シュラさん」 「・・・そうだな」 三人の息があったコンビネーション技にデスマスクさんは盛大に顔を引き攣らせたが、溜め息をひとつつくと話題をもとに戻した。 「それで?俺の言ったことであっているんだろ」 「ええ・・・、まあ。でも、そんなものですか?」 「ちなみに聞くけどサガとはどこまで?」 「・・・手もつないでないです」 そう言えば、デスマスクさんとアフロディーテさんは目を見開いて見つめあった。 シュラさんだけは相変わらず冷静だ。さすが武士だ。それか、こんな話には興味がないのか。 「やっぱり13年前、私たちはサガを止めるべきだった。あんな教皇宮の奥深く暗い所で青春時代を終えたから、奥手の最高峰にまで上り詰めてしまったんだ」 「・・・いや、むしろ神のようなと呼ばれていたあの頃のまま育っていたら、サガは今頃さらに潔癖な・・・たとえば、鏡に映った自分の姿だけで満足できるようなナルキッソスのような男になったに違いない」 「それ変態っていうんじゃねえか。まあ、確かにサガはムッツリっぽいけどな!」 「そんなことサガさんが聞いたらさすがに怒りますよ」 そう言えば、アフロディーテさんは構わないと言いながら、くすくすと笑った。 ・・・なんか、アフロディーテさんて、今さらだけどめっちゃ美形じゃないか? こんな容姿だったら、サガさんもクラッと来ちゃうんじゃないか?そうなのか?そうなんじゃないのか? 「お、女として立つ瀬がないー!!」 「ああ、だいたい君が考えていたことは分かるけど、私は男だからそれは忘れないでくれ」 にこにこと笑いながら、私に軽くでこピンをしたアフロディーテさんによって意識を引き戻される。 そうだった!アフロディーテさんは男の人じゃないか!それにサガさんがむらむらしたら嫌すぎる! 「あの男が奥手なのはわかったけどよ、それならなまえ、お前から誘ってみればいいだろ」 「ええ!じゃあっ、わっ、私が急に、今晩どう?とか言っても引きませんか!?」 「何段階すっ飛ばしているんだ。落ちついてくれ」 「じゃ、じゃあ、あなたの一歩後ろを歩いてもいいですか、とか?」 「お前は大和撫子か。お前までさらに奥手になってどうするんだよ」 呆れたように言ったデスマスクさんに、なんだか申し訳なくなってくる。 そもそも今までろくに恋愛もしてこなかった私が悪いのだろうが、それにしてもこれは酷い。 せめて少女漫画でも読んでおくべきだった。 「だけど、なまえ」 ぽん、と私の肩に手を置いたアフロディーテさんがふわりと微笑む。 「これは、そんなに焦ることじゃない。ゆっくりと君たちのペースで進めばいいんだから」 「焦る・・・、・・・そう、ですね」 確かに私はちょっと焦っていたかもしれない。 サガさんと恋人らしくなりたくて、早く早くと気持ちが急いていた。 そもそも恋人らしさってなんだろう。 そんなのは世間からの評価で私たちには関係ないんじゃないのか? 私は、彼が大好きだし、彼もそうであってくれればいいと思うし、彼の優しさも愛情もちゃんと感じていたはずじゃないか。 それなら、何も不安に思うことなんてないはずだし、十分なはず。 「それに、考えてごらん。サガがアイオロスのようにハグー!とかなまえキスしてキスー!とか言ったら気持ち悪いだろう」 「いや、さすがにアイオロスさんもそんなこと言っていませんけど、確かにそうですね・・・」 「なまえ、おはようのハグをしよう」 「はい、サガさん」 「なまえ、それではおはようのキスをしよう」 「はい、サガさん」 「・・・うん、そんなサガさんはなんか変です」 「だろう」 「・・・むしろ、少し見てみたい気はするが」 「シュラ、その好奇心旺盛なところ、いっそのこと清々しいぜ」 俺は想像しただけで鳥肌物だと顔を顰めたデスマスクさんに、アフロディーテさんが鼻で笑った。 「・・・・」 ああ、 なにか、 すこしスッキリしたみたいだ。 「納得したかい?」 「はい!ありがとうございます、アフロディーテさん!最初から貴方に相談すれば良かったです!!」 「怒って良いのか?俺は怒っても良いのか?」 「冗談ですよ!デスマスクさんも・・・あまり参考にはなりませんでしたが、ありがとうございます!」 そう言えば、むすっとした顔をしていたデスマスクさんは満足げに笑った。 ・・・どうやら、あまり参考にならなかったというのは彼には気にならないらしい。何故だ。 「それじゃあ、お茶にしようか」 「はーい!」 ぱん、と微笑みながらアフロディーテさんが手を叩き、その話題はそこで終わった。 一歩ずつ自分たちのペースで進めばいいと (確かに納得はできた) |