「悪い、聞こえなかった」

薄暗く涼しい巨蟹宮のど真ん中で立ち止まったデスマスクさんは、顔を引き攣らせてそう言った。
シュラさんとアフロディーテさんも目を瞬かせて私を見下ろす。

「デスマスクさんって恋愛経験豊富ですか?」
「あー、まあ・・・人並みだろ」
「お前のは遊びだろう、デスマスク」

目を反らし、頭をかきながらそう言ったデスマスクさんにシュラさんが即座に突っ込んだ。
そんな彼の後ろでアフロディーテさんも頷いて同意を示す。

「うるせえよ、魚野郎!・・・で、急にどうしたんだよ、なまえ。まさかとうとう俺様に乗り換え・・・」
「や、それはないです」
「・・・・」

昨日、ふと気になってしまったサガさんと私たち関係。


悩み過ぎて寝不足だ。


本当は、誰にも言うつもりはなかったのだ。
だが目の前を歩くデスマスクさんの広い背中を見ていたら、なんとなく彼にだったら相談できる気がして。
あの・・・、なんというべきか、カマンベイベーな雰囲気を勝手に感じ取ってしまったのだ。

だからつい口が滑って聞いてしまった。
言ってしまってから私は何を言っているのだろうと恥ずかしくなったが、もう後の祭りで、デスマスクさんは私を見下ろして片眉を上げる。


「なら、急に恋愛経験豊富ですかって何のつもりだ」
「・・・あの、質問なんですが、好きな子のこと触りたくなったりします?」
「ぶふっ!!」
「うわっ、汚いよ、シュラも蟹も」

いきなり噴き出した二人からアフロディーテさんとともに距離を取る。
デスマスクさんはそんな私を見て顔を引き攣らせたが、咳払いをひとつするとにやにやと笑い出して言う。

「いきなり何だと言いたいのは山々だが・・・、まあ良い。・・・・なまえ、触りたくなるかって当たり前だろ、お前」
「や、やっぱりそうなんですか・・・!」

好きな子を触りたくなるということは、やっぱりサガさんは・・・!

いや、でもこれはデスマスクさんの場合だから、ケースバイケースになるのだろうか?
べたべたしたがるサガさんなんて想像できない。
でも、それは彼が私に魅力を感じていないからだとしたら?

・・・否定が出来ないのが悲しいぞ。

ああ、考えれば考えるほど分からない。

だがデスマスクさんが大真面目だというように、顎に手を添えながら吐きだした言葉に私は溜め息をつきたくなった。

「できれば胸はでけえほうがいいな」
「・・・・・・・」

恐らく彼の考えていることを察して溜め息をつく。
・・・そういう意味ではないのだが。

なんだって胸の話になるんだ。
そもそもサガさんはそんな出会いがしらに女の人のカップの大きさを確認するような人じゃないではないか!!まったく助けにならない返答だぞ!

「あとくびれ」
「・・・ああ、そっか!デスマスクさんに聞いた私が馬鹿だったんですか?」

手をぽん、と叩きながら言えばアフロディーテさんが私の肩に手を置いて微笑んだ。

「その通りだ、なまえ。今回ばかりは人選ミスとしか言えないな」
「ですよねー」
「お前らちょっと積尺気にでも行ってくるか?」

そんな私たちを見てデスマスクさんは人差し指を立てながら顔を引き攣らせる。
本当にマフィアみたいだ・・・、なんて失礼なことを考えているとシュラさんが小首をかしげながら私たちの間にはいった。

「なまえは何故そんなことが気になったんだ」
「それは・・・、えっと・・・」
「サガさんが私に触れてこないんですー」
「・・・・」
「・・・、デスマスク、私たちは十年以上の付き合いだが、今ほど君を気持ちが悪いと思ったのは初めてだ」

私の真似をしたらしいデスマスクさんにアフロディーテさんが本気でドン引きしているような顔で後ずさる。
シュラさんは無表情にデスマスクさんから一歩離れた。

とりあえず私も空気を呼んで一歩下がることにする。








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