「あれ、なんか悲鳴が・・・」
「あら、なまえさんも聞こえました?」
「なんだろう、何かあったのかな?見に行ってこようか」

怪我とかしていたら大変だとソファから立ち上がれば沙織ちゃんは私の腕を掴んで首を振った。

「大丈夫ですわ。今のはアイオロスの悲鳴です。彼はまあ丈夫なので問題ないでしょう」
「え、よくわかったね!」

エスパー?と聞けば、冷静に小宇宙ですと返答される。
・・・私からすれば、それも十分にエスパーなのだが、彼女的には違うらしい。

「恐らくサガとふざけ合っていたのでしょう。なにも問題はありません」
「え、サガさんがふざけているところとか見たことないよ!!」

すごく興味があるんだけど、それ!
見てみたいなぁ・・・。

いつもは格好いいけど、きっとふざけているときは可愛いかったりするに違いない。

ああ、想像すればするほど気になるぞ。

「うふふ、私もそれは見たことはありませんわ。・・・それで話を戻しますが、サガとはどこまでいったんですか!A?B?C?」

にっこりと笑った後に沙織ちゃんは私に詰め寄りながら、悲鳴が聞こえる直前まで問い続けていた質問に戻る。

「や、それはトップシークレットだよ、沙織ちゃん!」
「安心して下さい、誰にも話しませんから!ですからぜひ、お話しなさい、なまえさん!さあ、さあ、さあ!!」

段々と物凄い勢いで私につめよる沙織ちゃんに一抹の恐怖を感じながら、逃げようとするが肩を掴まれ阻まれる。

「なまえさん、逃げられると思いましたか」
「沙織ちゃんは地上の愛と平和を守る女神様でしょ!暖かく見守ろうよ!!」
「違いますわ、なまえさんの恋愛について詳しく聞きたがる女神です!」
「なにその後付け設定!!ていうかどんな女神だよ、それ!」

だがもう逃す気もないらしい。
肩をがっしりと掴んでずいずいと迫る沙織ちゃんに観念して私は声を張り上げた。

「ど、どこまでもいってないって!」

その瞬間、部屋が沈黙に満ちる。

「・・・え?」

初めに沈黙を破ったのは、呆気にとられた顔でそう呟いた沙織ちゃんだ。

「え?」
「も、もう数カ月たちますわ。なまえさんとサガが恋仲になってから」
「そ、そうだね」
「それなのにまだ何も?手をつなぐくらい・・・」
「な、ないってば!」

はっきりと否定すれば、彼女は信じられないと言ったように首を振りながら息をついた。

「サガ・・・!シオンの殺害や私の暗殺未遂の時はいらぬ行動力を存分に発揮する癖にどうしてここぞと言う場所で奥手なの・・・!!」

くっ・・・!といいながら、握りこぶしを作った沙織ちゃんに首をかしげながらもソファに座り直す。


確かに私たちはいつでも、書類の整理に執務室の掃除に、任務の報告書のまとめばかりしている。


・・・あれ?おかしいな、これって恋人がすることか?

「あっ、でもでも!一緒に紅茶飲んだりね、あとサガさんにギリシャ語を教えてもらったりしてるよ!!」
「な・・・!なんて汚れなき潔白なお付き合いなんでしょう!!今の映画のようにぐいぐいといくことはしないのですか!?」
「や、夜景を一緒に見にいったことなら!!・・・その、ギリシャ語の数の勉強しながら・・・」

あれ?
思い返せば思い返すほど恋人らしいことしていないな。

なんか、付き合ってないみたい。
というより、付き合う前から、なにひとつ変化していない。

「――――・・・・」


私は、サガさんのことが大好きだ。


でも、サガさんは?

好きだ、とは言ってくれる。
けど、・・・


ああ、もう!
何を考えているんだ、私のばか。
サガさんが嘘をつくはずがないのに。


でも、・・・あれ、・・・。

もしかして、


サガさんから、私に触れてきたことは一度もない?

「・・・・、」


いや、単に彼がそういう慣れ合いを好まないだけかもしれない。
なにも不安になる必要はないはず。

ないはず、なのに


「なまえさん?」
「あっ、・・・なんでもないよ!・・・そうだ、沙織ちゃん、紅茶淹れなおすね」
「お願いします」

小首をかしげながら空になったカップを渡してくれた沙織ちゃんに背を向ける。

心臓が何故かとても早く脈打っていた。





突然感じた疑問と不安
(こんなに大好きなのは、もしかして私だけ?)






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