雷が落ちる。




「ひどい雨ですね」

ちらりと窓から外を見る。
久しぶりに見るほど土砂降りで、視界は最悪である。
いつもなら眼下にできる美しい十二宮を見下ろすことすらできないほどに。

「ミロさんとカミュさん、アテネに買い出しって言っていましたけど傘は持って行ったんでしょうか」

濡れていないと良いがとつぶやいた言葉にムウさんが顔を上げた。

「カミュがついているのなら心配はないと思いますよ、なまえ」

ふわりと微笑んだムウさんに、それもそうだなと考えて私は雨が入らぬように窓を閉じた。室内もなんだか少し湿気ている気がする。


春先の嵐、ひどい天気の午後だった。



「どうぞ」

ノックが聞こえてムウさんが、書類から目をそらさずにそう言う。
その瞬間部屋に飛び込んできたのは、

「わ、沙織ちゃん!」

執務室に黄金の丈を片手に飛び込んできた沙織ちゃんにムウさんが目を見開いて膝をついた。
つられて私も同じ行動をしようとすれば、沙織ちゃんは手を挙げてそれを諌めた。

「結構ですわ、なまえさん、ムウも。頭など下げないで」
「ア、アテナ、なぜこのような場所に」

確かに、言われてみれば沙織ちゃんが執務室に訪れるのはこれが初めてのことかもしれない。
ムウさんの疑問ももっともだと沙織ちゃんを見れば、彼女は可愛い顔に笑みを浮かべた。

「なまえさんと休憩がしたいのですが、かまいませんか?」
「私はいいけど・・・、えっと」
「ああ、こちらは問題ありませんから、どうぞ休憩をなさってください」

穏やかに笑みを浮かべたムウさんにお礼を言って、沙織ちゃんと部屋を出る。

教皇宮の廊下は天気が悪いせいか薄暗かった。
道行く女官さんたちが頭を下げる。沙織ちゃんはそれに微笑みを返しながら口を開いた。

「映画を日本から取り寄せたのです」
「わ、本当?私映画好きだよ!」
「まあ、よかった。ですからお茶でも飲みながらなまえさんと、と思ったのです」
「楽しみ!」

そう笑えば、沙織ちゃんも微笑んだ。
なんの映画だと言えば、その微笑みはにやにやしたものに変わったのだが。

「恋愛映画です」
「えー、恋愛映画はあまり見たことないな・・・。沙織ちゃんは好きなの?」
「いいえ、なまえさんとサガのお付き合いのお勉強になるかと・・・」
「沙織ちゃん!」

そういうことは大きな声でいうものじゃないだろう!
そういえば、彼女はくすくすと笑いながら逃げるように駆けた。

「あ!逃がさないよ、沙織ちゃん!!」
「うふふ、先にお部屋で紅茶を淹れておきますから、なまえさんはごゆっくりとサガとの関係を考えながらいらしてくださいな!」
「もう!からかわないでってば!!」
「それではお先に失礼いたしますわー!」

まったく元気な娘だ。

ぱたぱたと駆けてあっというまに見えなくなった沙織ちゃんに私は息をついた。


「・・・紅茶・・・、クッキー?」

だが、紅茶のお茶請けにはクッキーがいいだろうか。

なんてすぐに思考変更するあたり、私も案外まんざらでもなかったのかもしれない。











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