朝から最悪だ。 今日は本当に最悪なのだ。 目覚ましが壊れていて寝坊したし、ゴミ出しに遅れぬよう急いで教皇宮から飛び出たら空から鳥の糞が落ちてきて頭に直撃した。 くそ、あの鴉。絶対にいつか焼き鳥にして食ってやる。 ついでに私はタレ派だ。塩も良いがどちらかというとタレのほうが良い。 焼き肉の場合はケースバイケースだが。 ・・・いや、そうじゃなかった。 それで、頭に糞をつけたままゴミ出しに行くわけにもいかなかったから、部屋に戻って頭を洗って、そして、十二宮を全力ダッシュで駆け降りて、・・・そして転んだ。 盛大に転んで見せた。 大地とアツアツのキッスだ。 「・・・ふっ、ふふふ・・・!神よ、これが貴柱の望んだ世界だと言うのか!」 幸い怪我はしなかったが、朝から不運続きじゃないか。 これはこの後ガムとか踏んだり、生ゴミを頭からかぶったりするんだろう! なまえちゃん知っているんだからね! 「・・・だ、大丈夫ですか、なまえさん?」 「だ、大丈夫です。すみません」 躓いたショックから、立ち上がることもせずに笑いながら地に伏せていると、女官さんの一人がドン引きした顔で問いかけてくる。 ああ、こんな道のど真ん中で何をやっていたんだろう。私は馬鹿か。 のそりと起き上がると、髪についていたらしい木の葉がぱらりと落ちて行った。 今日も、聖域は良い天気だ。 「おや、今日は遅かったんだね、なまえ。寝坊かな?」 廊下で兵士さんに呼ばれ、教皇の間を訪れた。 そこでシオンさんにサガさんに渡す書類を受け渡されてから執務室に訪れた時には、すでにいつもより一時間は遅かった。 初めに目があったアフロディーテさんがそう微笑みながら言ったのを聞いて苦笑する。 「すみません。時計が止まっていたのと、鴉の糞爆撃を受けました」 「それは災難だったね」 「矢座のトレミーさんも驚きの正確な射撃でした・・・!」 「つまりかわせずに、喰らったと言うことだね?」 くすりとアフロディーテさんが笑うと、書類と睨みあいながら机に沈んでいたミロさんが机をたたいて立ち上がった。 「なに!鴉のくせになまえになんてことを!!おい、アフロディーテ、この書類を任せるぞ」 「なにかするのかい、ミロ?」 「全世界の鴉という鴉を殲滅しに行ってくる」 「鳥座のジャミアンがショック死しかねないから止めてやってくれ」 至って真面目な顔でスカーレットニードルの構えをしたミロさんに、アフロディーテさんが溜め息をつく。 それを見て笑いながらサガさんのもとへ書類を運べば、彼も穏やかな笑みを浮かべた。 「災難だったらしいな」 「はい、まったくです。どうぞ、シオンさんからの書類です」 「ありがとう、なまえ」 手渡した書類に目を通したサガさんが、また胃を抑えたあたりロクでもない内容が綴られていたのだろうなと考えながら、新しい胃薬の場所を思い出す。 「こんな日はきっと良いことないですよ!経験上そう言えます!」 「例えば?」 胸を張って断言すれば、アフロディーテさんが薔薇の花弁を永遠と毟りながら問いかけてくる。机の上が花弁で真っ赤になっている。 この人は何をやっているんだろうと思いながらもその問いに答えることにする。 「中学生のころ、鳩の糞爆弾を受けた日は教頭のカツラが目の前で落ちて、つい爆笑したら校長室に呼び出されました」 「なんで呼びだされるんだ?それを笑わずにいられるやつの人間性を疑うぞ!」 「ですよね!?なのに私、反省文書かされたんですよ!」 あれは悪夢だったと言えばサガさんとアフロディーテさんがくすりと笑った。 だが、言っておくが、あの日の私にとってそれは本当に笑い事ではなかった。 なぜなら、怒り心頭の様子で目の前で仁王立ちしていた教頭のカツラが尚も微妙にずれていたからだ。バーコードがしっかりのぞいていた。あれを笑わずに無表情で数時間過ごした私は褒めてもらえると思う。や、本当に。 そんな私に、サガさんがふと思いついたとばかりに口を開いた。 「ああ、なまえ。今日はここにいなさい」 「・・・?はい」 一体なんだと思いつつも、ほとんど仕事は執務室で終えることができるので頷くとサガさんは尚も微笑んだまま言った。 「そうしたら、何かあったら守ってやれるだろう?」 「サガさん・・・!!」 さすが地上の愛と平和を守る戦士!そこにしびれる憧れるー!! 「わぷっ」 と、どこぞで読んだ台詞を思い返していると頭を書類で軽くはたかれた。 振り向けば、腰に手を当てて片眉を上げたまま私を見下ろしているデスマスクさんの姿。 「お前ら執務室でイチャつくのは止めてくれ」 「イチャついてなんていません!!」 「イチャついてなどいない!!」 「おーおー、息もぴったりだ。さっさと結婚しちまえよ」 「な、デ、デスマスク!!そういうことは然るべき順序を積んでからするものであってだな、」 「そうですよ!一体どうしてそんな思考になったんですか!!」 「さてあの様子だと結婚まであと何年かかることやら」 そうため息交じりに私の呟いた言葉にミロが目をきらりとさせて振り向いた。 「俺は案外早いにかける」 「なら私は数年かかるにかけようかな」 「20ドラクマでどうだ?」 「構わないよ」 そう告げて、再びなまえとサガを眺める。 大真面目にデスマスクの言葉に反応して返事をする二人のなんと純情なことか。 だがそれにしても、デスマスクの言うとおりに息は本当にぴったりなのだ。 「・・・これは、私の負けかもしれないな」 「ん?何か言ったか?」 「いいや、なにも?」 デスマスクとなまえの騒ぐ声を聞きながら、私はミロに笑い返し、そして再び書類に目を向けた。 え?ああ、まだです (結婚を考えるには) (まだ私たちは互いを理解しきっていない!) (((互いを理解しきってから結婚する奴のほうが少ないと思う))) |