「おい、なまえ!俺の服がない!」
「カノンさんの服!?さすがにそれは知らないですよ!!」
「あの、なまえさん、私の服もないのだが・・・」
「ええ・・・!?い、いつもの・・・じゃ大きすぎるか。私のジャージとか着る?え?着ない?ですよねー!」

食後。
本来なら落ち着いた時間であるはずのその時。

双児宮は、いつもはあり得ないほどに騒がしかった。

「そっか、サガさんたちがいつも服入れているところに貴方たちもしまっていたんだもんね」

今のクローゼットには大人サイズの服しかないのだろうが、今の二人はせいぜい私と同じくらいの身長だ。ぶかぶかすぎる。
だからといって、これから風呂に入ってもらおうと思っていたのに服がないのは困る。

「んー、どこかに仕舞ってあるとは思うんだけどな」

きっちりしたサガさんのことだし、きっとどこかしらに古くなった服もしまってあるのだろうとは思うのだが。

さすがに私が彼らの部屋に侵入して漁りまくるわけにもいかないだろう。

「うんー・・・、・・・・あ!そうだ!」

この間大掃除をした時にサガさんが子供のころ着ていたという法衣を仕舞ったことを覚えている。今日はとりあえずそれを着てもらおうと、その場所を彼らに告げれば、カノンさんが盛大に顔をゆがめて嫌そうな表情を浮かべる。

「こいつとお揃いかよ!」
「可愛くていいじゃないですか!!むしろ早くそれを見せてください!写真撮影はオーケーですか!!」
「お前気持ち悪いぞ!」
「うっ!!」

なんという直球勝負!
私のプラスチックハートが真っ二つだ!

「だ、大丈夫か?」
「うん・・・なんとかね・・・。とりあえず洋服は明日ゆっくり探しましょう。なければ私が買ってきますから」

とりあえず風呂に入って来いと、双子を風呂場に押し込む。
カノンさんが、なんでこいつと!と叫んでいたが双児宮の風呂は広いから問題ないだろう。ばたんと扉を閉めれば次第に彼のどなり声も聞こえなくなった。


「・・・ふー・・・っ」

静かになったリビングのソファに勝手ながら腰かけさせてもらう。

さて、困ったことにサガさんは異常なまでにカノンさんが知られることに神経質になっているし、カノンさんはカノンさんで、そんな彼にいらいらしている。

今すぐムウさんのところに行っても良いのだが、とりあえず今晩はよしておこう。サガさんがそれをきっかけに暴走しても私には止めるすべを持たないのだし。


「・・・・・・」


そう、考えてみると、私は彼らのことを知っているつもりで、ほとんど何も知らなかったのだなと思う。

「・・・情けないな」

こんなんで、恋人、だなんて。

ばかみたい。


あの幼いサガさんが何かを気にし続けているのはわかるのに、私にはそれが何なのか、皆目見当もつかない。

「ん」

ふと、扉がノックされる。
誰だろう。
おそらく、サガさんかカノンさんに会いに来たのだろうけど、今の彼らに合わせられる状況ではない。今日のところはお引き取り願おうと扉を開ければ、そこに立っていたのはアイオリアさんだった。

「む、なまえ?」
「ああ、アイオリアさん、こんばんは。すみません、サガさんとカノンさんはちょっと今出ていて留守なんです」
「そうなのか?任務について聞きたいことがあったのだが・・・、それなら仕方があるまい。出直すことにする」
「ええ、すみません」
「・・・・・・ところで、なまえ」

丸い目をくりくりさせて私を見下ろすアイオリアさんと目があう。

「お前たちは、結婚したのか?」
「け・・・っ!!!!してないです!!いったいどうしてそんな考えに!!」
「い、いや、こんな時間までプライベートルームにいるのだから、と」
「今日は夕食に誘われただけです!!食器洗ったら、すぐに教皇宮へ帰りますよ!!」

いったい彼の思考回路はどうなっているんだ!!
必至で否定をすれば、アイオリアさんは納得がいったのかいっていないのか、首を傾げながら双児宮を去って行った。
まったくなんて質問をしてくる人だ!

ちょ、ちょっと想像しちゃったじゃないか!


『お帰りなさい、あなた』

『ああ、ただいま、なまえ』

『ご飯にする?ライスにする?それとも・・・お・こ・め?』

『全部米だぞ、なまえ』

『あらやだ、私ったら』

『お茶目さんだな、なまえ』

『やんもうサガさんったら!』




「・・・ふぉおおおお!!!」
「うわっ!!?」
「うひゃあ!サ、サガさん!!いつからそこにっ」
「さ、さっき・・・!アイオロスにそっくりな男が来た時から・・・」
「アイオロスさん?・・・確かにそっくりだけど、あれはアイオリアさんですよ、サガさん」
「アイオリアはまだ子供だぞ」


そうか、彼は知らないのかと苦笑しながらそういえば、彼はまったく理解できないとばかりに首を傾げた。


ああ、もう。
この際はっきりさせてしまったほうがいいのではないか。うん、そうしよう。回りくどいのは苦手なのだ。

「落ち着いて聞いてください、サガさん。今現在、この世界でのあなたの年齢は28歳です。あなたはたぶんムウさんの薬の実験台として12歳の姿になってしまっただけなんですよ。だからね、周りはみんな、あなたの知っている年齢プラス16です」
「・・・あなたはとても夢がある人だ」
「・・・うん、まあそんな突然信じてもらえるとは思ってなかったけどね」
「だけど、あなたは彼に何も言わなかった」

カノンのこと、とつぶやいた彼の顔色はもうだいぶ良くなっていた。

「ありがとう」

なんてこった。









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