「あれ、カノンさんって何処に行ったんですか?」 「教皇と話をしているのを見たぞ」 「そうですか、ありがとうございます、シュラさん」 任務についての書類に一通り目を通し終え、そろそろ自宮に戻ることにする。 ペンを置いた私のわきをぱたぱたとかけて行ったなまえは、今日も大忙しのようだ。 そういえば、彼女は朝から働きづくだ。そろそろ休憩をとるべきだと思うのだが・・・。 「なまえ」 「はいはい、どうぞ、サガさん」 「ああ、ありがとう」 「いえいえ、どうも」 一切の無駄のない動きでコーヒーを準備したなまえは、サガに手渡すと忙しそうにファイルを片付けに書庫へとかけていく。 「・・・・・・・・おい、カミュ」 「ああ私もそう思っていたぞ、ミロ」 彼女は明らかに働き過ぎだ。 「あいつら、熟年夫婦みたいだな」 「ああ、・・・」 相槌を打ってから気づく。 なにか、おかしな言葉が聞こえたような気がしたのだが。いや、クールになれ、カミュよ。いくら親友が少しやんちゃなところがあっても、今この場面でまさかそんな言葉が聞こえるはずもあるまい。 「・・・すまん、何と?」 「いや、だから、サガとなまえが熟年夫婦に見えないか?」 「・・・・・・・」 親友は一体何を言っているのだろうか。それとも私の耳がおかしくなったのか。嗚呼、後者であったならどれほど良かっただろうか。 「だってあいつらの会話主語がないんだぞ!?なんで会話が成り立つんだよ!」 「恋人だからだろう」 「恋人が皆主語なしで会話していたら俺だってこんなこと言わない!」 そうカミュに言い放てば、隣でココアを飲んでいたシュラがしれっとミロの言葉に答えた。 「ならばテレパシーだ」 「・・・シュラ、お前って俺が思っていたよりメルへンだったんだな」 何処か遠い目をした親友に首をかしげながらも、彼曰く熟年夫婦のなまえとサガに視線をやる。 「どうぞ、サガさん」 「ああ、ありがとう、なまえ」 「いえいえ。じゃあ、片付けますね」 「悪いが、その際に教皇のところにも行ってもらえるだろうか」 「ええ、構いませんよ。お昼のことでしょう?」 「忙しいのにすまない」 確かに、言われてみれば主語がない。 よく会話が成立しているものだと感心すら覚える。 「・・・おい、なまえ!」 「はい、なんですか、ミロさん」 恐らく任務の報告書の束を持って執務室を出ようとしたなまえに、ミロが突然声をかける。彼女は普段通り笑みを浮かべて歩み寄ってきた。 「・・・・・」 「・・・・?」 肩を掴んで強引に見つめる。なまえの顔が引きつる。 頭に疑問符を浮かべるなまえになおもミロは見つめ続ける。 「・・・・・・・・!」 「・・・?・・・・・・!?な、なんですか?なんなんですか、ミロさん!?」 最終的になまえに眼つけているような形になったミロをシュラが無言で引きはがす。 なまえは一体なにがどうしたのかと目を白黒とさせて私たちを見渡した。 「サガとの会話が熟年夫婦のようだったから」 「じゅ・・・っ、そんなに年は取ってません!」 「突っ込むところはそこなのか」 相変わらず不思議な子だ。 「主語なしでよく会話が成立するなって思ったら、シュラがテレパシーだなんて言うから、とうとうなまえも小宇宙に目覚めたのかと思って俺も小宇宙通信送ってみたんだけど」 「いやいや、全然目覚めてないですよ。なにも分かりませんでした。実にすみません」 「ほらみろ、シュラ!やっぱりテレパシーじゃなかったぞ!」 親友の中ではテレパシー=小宇宙の公式が出来上がっているらしい。 何故か偉そうにシュラに指摘したミロに、シュラはさらにあっけらかんとした表情で答えた。 「・・・なら愛の力だな」 瞬間、茹でダコが二つできた。 (ななな、なにを言うんですか、シュラさん!!) (あ、愛の力・・・・!) (サガさんまで、何顔赤くしてるんですか!止めてくださいよ!) (お前も真っ赤だぞ、なまえ) |