「それじゃあ、行ってきます」 「気をつけてな、なまえ」 「えへへ、サガさん、お土産買ってきますね」 荷物を運んでくれたサガさんにお礼を言って受け取る。 空は快晴。 風も穏やかで、空気もおいしい。 最高の旅行日和ではあると思う。 あとはもう、飛行機に乗り込むだけだ。 沙織ちゃんと私貸切の。飛行機、貸切。・・・貸切。大切なことなのでなんども言う。そもそも貸し切りでなくとも飛行機なんて高いというのに、前から思っていたけどお金持ちのすることは計り知れない。 「気をつけてな。いいか、町を歩くときは星矢たちを連れて行け。なまえは可愛いのだから一人で歩いたりするのは禁止だ」 「いやいや、いきなり何を言い出すんですか、貴方は」 「人攫いに気をつけろ。それから痴漢は星矢に引き渡せ。飛んでいく」 「絶対大丈夫ですって。ていうか何ですか、人攫いって」 「なにかあったらすぐに連絡しろ。・・・なまえ、・・・やはり私もついて、」 「心配し過ぎですよ!日本をなんだと思っているんですか!サガさんは安心して待っていてください!」 「・・・分かった。それから、風邪をひかないように」 「ええ、サガさんも体調にお気をつけて!」 笑顔で返せば、彼は了承のあとなんとも言えない微妙な表情を浮かべて、再度気をつけるようにと言った。 「なまえ、」 「なまえさん、そろそろ出発致します。ご搭乗願います」 「あ、うん。それじゃ、サガさん、行ってきます」 「・・・ああ、行ってらっしゃい」 そうして私は一週間の祖国訪問を果たすのだった。 「一緒に行けば良かったじゃないですか」 「・・・そうも言ってられんだろう。黄金聖闘士がそう簡単に十二宮を空けることはできん。大丈夫だ、日本には星矢たちがいるのだ。何も心配はない」 「心配がないと言う顔ではないですけれど」 十二宮に戻ってきたサガを白羊宮で出迎える。 なまえといるときは穏やかな表情をしていたくせに、今は苦虫をかみつぶしたような顔だ。 まあ、サガの場合、戦闘に関していくら玄人だとしても、恋愛に関してはてんで素人のようですし致し方ないでしょう。 「いくらなまえがいないからとは言え、生活のペースを乱してはいけませんよ」 彼女がここに来る前のことを思い出して言う。 徹夜断食当たり前で仕事にのめり込んでいたのが容易に思い出される。 なまえが来なければ、おそらく今も改善されていなかっただろう生活。 「・・・善処しよう」 「なまえに言いつけましょうか」 苦笑いを浮かべてそう言ったサガにそう口添えれば、口元を引き締めて決意したらしい。 「絶対に乱さん」 それほどまでになまえに怒られること、いや嫌われるのが嫌なのだろうか。 まったく三十路前のこの仕事病男に春が訪れるだなんて、誰が想像しただろうか。 それもその相手がなまえだなんて・・・。 別に羨ましいだなんて思っていませんよ。いくらなまえが可愛らしく、よく気が利き、それでいて元気もあり、時折奇想天外なことをして私たちを楽しませ、疲れているとき些細な気配りのできる娘だからとはいえ、ええ、羨ましいなどとは思っていません。 ええ、断じて。まあ、彼がなまえを悲しませたらすぐに私がもらうつもりですが。 「それではムウ、私はそろそろ戻る」 「ええ、お仕事もほどほどにしてくださいよ」 「善処、」 「なまえに」 「約束する」 二度目のそんなやりとりに互いに微笑しながら別れ、教皇宮へと戻っていく、心なしか小さくなった背中を眺めて息をついた。 実に哀愁が漂っています。 さすが三十路前、真似できませんね。 さて、はたして一週間なまえのいない生活で、彼が干からびずにいられるのでしょうか、ね。 「・・・いや」 当面の問題は師にあると言ったほうが良いのかもしれない。 昨日彼女の旅行に関して、あれだけ騒いで渋ったのだ。最終的には女神の一言でしぶしぶ了承したが、今日から一週間私があの方の我儘を聞かなければならないと考えると、・・・ああ、胃が痛む。 ここのあいだ、しばらくはなまえがあの年よりの面倒を見てくれていたおかげで、なんと楽だったことか・・・。 ・・・・いっそのこと強力な睡眠薬でも服用させて、一週間放置したいところですね。遠くで貴鬼が自分を呼ぶ声に気づき、教皇宮を一瞥した後私もその場を後にした。 |