そら






厚い厚い氷の中に眠る彼を優しく見つめた。彼は未だにこの箱庭から出てきてくれない。ああ何で、彼が生きる術がこれしか無かったんだろうか。ぶらりと足が床についていない格好のまま透明なハコに閉じ込められてる。可哀想な豪炎寺。疲れてるかな。土に還ることすら赦されない。ああ可哀想。安心して、俺が、君を抱き締めたまま土に還ってみせるよ。今はまだ、触れる事すら許されない君を、抱き締めて。表面に彼を守るハコの氷。つるつると指を沿える度に指に水滴がつく。先程から1立法cmほど小さくなった氷。豪炎寺と同じ空気を吸えるのはいつなんだろう。

「なあ豪炎寺、そこ気に入ってくれた?」


「なあ、返事してくれよ」

小さい氷柱を頑張って腕を伸ばして抱き締めた。と言っても閉じ込める事はできず側面に手を添えるだけ。豪炎寺は俺を見てくれてるかな。ふふ、やっと俺だけの豪炎寺だ。可愛いなあ。邪魔者もいない。俺はここでずっと一緒に豪炎寺と生きていくんだ。少し、ぴくりと豪炎寺が動いた気がしたけど氷の中なんだから不可能に決まってる。そう考えてまた抱き締めた。


「俺、豪炎寺を閉じ込めてからずっと皆と会ってない」


「偉いだろ?」



な あ ご う え ん じ、
    へ ん じ し て よ




「ッ円堂!!」

後ろの扉が勢い良く開いて邪魔者がぞろぞろと入ってきちゃった。待ってて豪炎寺、今すぐおっ払ってやるからさ。すぐにまた2人だけになるから安心して。修也!なんてそんな大きな声で名前を呼んでも無駄だ。だって豪炎寺は俺のものなんだから。にこ、と豪炎寺の姓をもつもう一人の豪炎寺。豪炎寺真人に笑いかけた。豪炎寺真人は悔しそうにこちらを見ている。こいつが皆をここに連れてきたのかな。だったらこいつをまずは倒そうか。面白いな、まるでゲームみたいだと思わないか?豪炎寺。だって俺と豪炎寺の仲を割こうとしているなんてまるで悪役みたいじゃんか。大丈夫、正義は必ず勝つんだから!豪炎寺を庇う様に氷の前に立った。大丈夫だよ豪炎寺。ポケットから包丁を出して自分の首にそっと当てた。



「円堂っやめろ!」


「キャプテンッ!!」


豪炎寺と俺を分かれさせたら、俺は自殺する。そう言いながら先頭に立っている豪炎寺真人と風丸に笑いかけた。ゴールキーパーだから結構反射神経はいいんだ。更にそう付け足して笑った。笑って笑って、ふと気付く。あ、後ろに誰かいる。


え、鬼瓦警部、




そう気付いた瞬間手首を掴まれて包丁を落とした。ぎりぎりと強い力で掴まれ顔を歪める。離せ、離せ離せ離せ離せ!!!!!!!!豪炎寺が、遠ざかっていく。鬼瓦警部が悲しそうな顔で俺を引っ張っていく。豪炎寺、豪炎寺、





「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!離せ離せ離せ離せ離せ豪炎寺豪炎寺ッ!!!」



豪炎寺ッ!!!!!!ごーえんじ、




ごうえんじ、






(円堂、)




「ご、えんじ、」



(円堂、また明日サッカーしよう)


(勿論だ!約束だぞー!?)


((ゆびきりげーんまーん嘘ーついたら…))



  「    」



((はーりせんぼんのーます!))







そこで視界はシャットアウト。
















そら
(とびたかったんだ)(彼といっしょに)



暗い暗い…


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