世界の残酷を迎えたある日







「、分かりましたー…」





んじゃ、用があるんでお先に。



ひらひらと手を振って煙草を咥えた円堂守は懐かしい文字で表紙が飾られている『同窓会のしおり』をくしゃりと握り締めて扉を押した。
差し込んできた光が目に痛くて久々の昼だ、とぼんやり考える。朝と深夜しか外に出ないサラリーマンには日光はきつい、と心の中で悪態を突きながら人通りの多い道を携帯を眺めながら器用に躱していく。


この動きに昔の名残を思い出してあの白黒のボールが脳裏にちらついた。あの輝かしかった時代はセピア色へと錆びていったのだ。


「うわあ、なっつかしいなー!」



雷門中!!!!




しおりに書かれた時刻より40分程遅れた時間を指している腕時計をちらりと一瞥し校門をくぐりぬけた。





















ざわざわと声のする方へとペタペタと安物スリッパの音をたてながら歩む。昔の自分は走りながらうるさい音をたててドアを開けて叫ぶんだろうな、と考え、そこでくすりと笑う。自分は何て単純な奴だったのだろう。





少し出た笑いをかみ殺して静かにドアに手を掛けた。そしてそのまま横へスライド。ガラガラと懐かしい音をたてて視界はリセット。

















こちらを呆然と見ている元チームメイト達ににやりと笑って一言。



「久しぶりだなあ、皆!」






――昔より幾分か低くなった声で音信不通だった伝説のサッカーチームキャプテンは着崩したスーツと安物スリッパで妖しい笑顔を浮かべながら姿を表した。

























「…………キャプ、テン」




「円堂…………?」



「円堂、君………………」





皆が目を見開きながらこちらを見ている事も気にせずズカズカと中心まで進む。そして先程まで吸っていた煙草を口に咥えた。それに目を見張る人数名。




誰かが遠慮がちに聞いた。この声は鬼道、かな。

「………円堂、お前、変わったな」



その言葉はあの頃から何度も言われ続けた。もう慣れている。トロフィーを掴んだ手で煙草を握り締めた。



「そっかあ?俺は今でもサッカーが好きだぜ!」



にぱ、と笑って転がっていたサッカーボールを抱えた。そのまま前へ突き出す。外国のサッカーチームのユニフォームを着こなした鬼道の胸にとん、と当たった。


「サッカー、しようぜ!」





何かを思い出した様に目を見開いたあと苦しそうに目を細めた鬼道にやっぱりか、と苦笑した。

(やっぱり昔の俺が、好きなんだ)







そこはかとなくダルい。何となく、ふうーっ、と煙草の煙を鬼道に吹き掛けた。


「けほっ、……何するんだ、げほっ」




あはは、むせてやんのー、とくつくつと笑いながら椅子を引いて立ち上がる。全員がこちらをみては悲しそうな表情をしていた。そりゃあ、一番サッカーが好きだった奴が一人だけサッカーから離れたんだから。
まあ、皆には分からないだろうけど、






「世知辛い世の中だよなあ、ホント」



ふわりと後ろを振り返って笑う。サッカーが一番好きな奴が、一番辛い結末なんだ。ヒーローは救われるんじゃなかったのかよ。



『良くて後、10年後。それで貴方は立ってもいられない。そういう病気なんです。世界で一番、残酷な病気。』




湧き上がる嫉妬と再び出会えた喜びと、再び会えると願う希望を胸に、




「最期に皆にあえて、よかった」











世界の残酷を迎えるある日
(最期って、ねえ)(どういう意味だ、よ)







続けばいいなあ、何でこう暗くなるかな^^


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