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妖怪と呼ばれるひとたちと、人間と呼ばれるひとたちとが共生するこの桜新町では、足がうろことか、そういうのは別に珍しくない。妖怪であるがゆえに人間に迫害され、行くあてのなかった妖怪たちや、ほかにもさまざまな理由でこの街に住むようになった妖怪はたくさんいるという。(その際恭助さんに本当に何も知らないんだな、といわれたけど別に気にしない)。


わたし自身は自分を人間だと思っていたのだが、この夢ではわたしは妖怪であったらしい。だから、つまり何が言いたいかって、ヒメちゃんや秋名さんにとっては、わたしのような、自分がなんだかもわかってない(つまり、自分を人間だと思い込んでいた)ような例もはじめてではなかったらしい。この街は妖怪にとっては特別な街だそうで、自分の意志でここまでやってきたにしてはさすがにものを知らなさすぎるとは言われたが、まあとりあえず適当にごまかした(具体的にいえば、街に来るまでの記憶がさっぱりだとか、本当に適当に、ありがちに)。どうせ夢だし、なかばどうでもいいなあと思っていたからだ。

「足、大丈夫?具合とか、悪くなったり…」

心配そうに足を覗き込む桃華ちゃんに、笑って首を振る。痛みはないし、今のところ身体にはなんの影響もない。心配ないよ、そう言ってひらひら手を振ると、桃華ちゃんは曖昧に微笑んだ。袖をとおした薄手のパーカーに、七分丈のデニム。左足のうろこは真っ白い色だから少し目立つけれど、気にしない。どうせ靴下で隠れる範囲だ。


わたしは、いま、この夢の中で、比泉生活相談事務所でアルバイトをしながらヒメちゃんの家に居候させてもらっている。

わたしはこれを夢だと信じているのだけれど、もし仮にこれが夢でなく現実であったなら、わたしは現実に妖怪であり、わたしのからだは現実にうろこに侵食され、わたしは現実にわたしの存在していたあの世界をなくしてしまうわけで、はたしてどうすればいいんだろうか、と思うばかりだ。

ほんとうに、ただの夢であってくれれば良いのだけれど。




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