※中学時代





「なぁ、金造さんのライブいつあんの」
「ふんふん」
「なぁってば」
「ふん、ふふん、ふん」


君への愛は危険地帯を冒険するくらいの勇気がないと成立しない


スピーカーからきこえる音でリズムをとりながら、ふんふんふんと鼻歌を歌う志摩くんの鼻をぎゅっとつまんでやった。「うへ、息とまった…鼻つぶれてもた」と涙目になりながらも笑顔の志摩くんを冷静な目で見つめる。

暑い中草取りってしてるっていうのに、めんどくさ〜い、もう帰りた〜いって一番弱音吐きそうやのになんでこんな涼しそうな顔しているのだろうか。

「なぁ志摩くん」
「ん、なになに?」

え、ちゃんと聞こえとるやんか。

「話相手にくらいなってよ」
「ええよ、なんの話します?」

こっちが話題ふるんかい。さっき、私の話なんて聞いてなかったくせに。

プチプチと草を抜きながら抜いた草を一カ所に集めると時々志摩くんの手とぶつかりそうになる。わ、ごっつい緊張する。手に汗かいてきた。

何か話さな!話題話題!

「えっと…あ、そう言えばまたええ大人が小学生の女の子のパンツを盗撮したんやって」
「あ、それ知っとる。小学生のどこがえんやろか…俺、想像できひんわ」
「や、君が一番その過ちを犯しそうやけど」
「んな阿呆な!俺かてさすがに小学生はあかんなぁ。俺の頭の中には大人の女の裸しか入ってへんですよ」
「きっもー!志摩くんてほんまけったいなやっちゃなぁ!離れろ、しっし」

志摩くんは離れるどころかもっと接近してきたからゾッとする。今までの緊張が一瞬で消え去った。ときめきを返せ!

「なぁ、女の子も男の体に興味あったりするん?」

なんなんだその笑顔。なんなんだその質問。

犯罪者になりかねない志摩くんと付き合う女の子は苦労するはずだ。

「よう恥ずかしげもなくそんなこと」
「な、どうなん?」
「だんごむし投げつけたろか」
「はは、苗字さん、女の子がそんなこと言うたらいけませんよ〜」

ちょろちょろっと志摩くんが5メートルくらい私から離れた。ほんまに虫があかんのやな。でもそんなに離れられると寂しいやんか。だんごむしくらいでびびって…かっこ悪い男やな。

また沈黙。草をぶちぶちむしりながら、何か話さないとと頭をフル回転。なんで私がこんなに気ぃ遣わなあかんの。

「あ、で、どうなん?」
「何が」
「……金造さんのライブいつあるんかって話」

ちらっと志摩くんを見るとばっちり目が合った。え、顔が笑ってない。何かまずいこと言ってしもた?

私があたふたしてるのなんて見ちゃいない。志摩くんはそっと立ち上がり、私の傍まで来た。ぎゃ!何や!と焦ってみるがどうやら草を持ってきただけみたい。

草をぽんと置くと志摩くんはそのまましゃがみ込んで私の方に体を向けた。

「金兄のことそないに好き?」
「(私が好きなんはあんたや、あんた)なわけないやん」
「ほな金兄の話禁止ってことで」
「あはは、何それ。志摩くん、それだとまるで私のこと好きみたいやで」

冗談っぽく笑ってやった。それなのに志摩くんは笑わないでらしくもなく真剣な顔をしていた。



「苗字さんのことはずっと前から好きやったよ」



ここから私の思考回路はショート。

草をぶちぶちプチプチ、もうなんでもいいから抜いてく。あっ、あれ、これ花?

しくじって園芸部が育ててる花も抜いてしまった私はそれを急いで土に埋めた。ごめんなさいごめんなさい!

「返事聞かせてもろてもええ?」
「え……あの……ごめんなさい!」
「え」



(いやいやいや今のなし!)
20110925