「坊、おめでとうさん」
「何がや」
「聞いたでぇ、名前ちゃんと付き合うことになったんやろ」
坊と志摩さんのやり取りを黙って聞きながら、僕は返ってきたテストの答案用紙に目を通していた。
僕の知らない間に何があったんやろか。
せい春真っ盛りの僕はまだ恋を知らない
「女将さんに報告せなあかんなぁ」
「志摩、んなことしたら許さへんぞ!」
怒っている坊を気にしない志摩さんはいつだって自由奔放だ。志摩さんのいいとこでもあり、悪いところ。
けど、幼少期からその自由奔放な性が変な方向に向かい出した。
「なぁなぁ、いつする予定なん」
「何のことや」
「またまた〜」
「…」
「坊はヤるときはヤる男やからな」
「お前、ほんましばくで!コラ!」
「二人でおるとムラムラせぇへんの?」
「んなどついてほしいならどついたる!尻出せ尻!」
「えげつないわー」
「助けて子猫さ〜ん」と志摩さんが僕の腕を掴むから軽く振り払った。
「子猫さんも聞きたいやろ」
「まるっきし聞きたないです」
「つれへんなぁ」
志摩さんはいつもこの調子やから慣れた。確か苗字さんは志摩さんとお友達だと聞いている。よう志摩さんが…
「あ、苗字さんってもしかして坊がかわいい言うてはった子ですか?」
「せや、俺が名前ちゃんとお友達になって恋のキューピッドにならはったんやで!やのにこの仕打ちってひどない?」
「か、感謝はしとる!けどな、おかんに言うな!それと暫くは名前の話はすんなや!わかったか!」
「あら、呼び捨て」
「やめぇ!」
多分、坊が志摩さんのお尻を蹴り上げたのと同時に話題の苗字さんが教室に入って来たと思う。
「見てみて、竜士くん。こんないい点とったの初めて!」とにこやかな笑み。あ、笑うとかわいい。
見せられた60点の答案用紙に顎が外れかけたのは言わないでおこう。
(どうか坊を頼んます!)
110924