「はい、これが坊」
「これって何や、志摩!」
「まぁまぁ、そない怒らんでも。坊は短気ですねぇ」
紹介された勝呂くんを前に、初めてってくらい胸が高鳴った。これで私も恋する乙女の仲間入り。
覚えておきたまえ、これぞせい春ってやつなのだよ
「わ、私は、1組の苗字名前です…」
「知っとる」
「へ」
「志摩からよう苗字さんの話聞いとったから」
なんだかばつの悪そうな顔をして勝呂くんは言った。志摩を見ると、いつもの得意げな笑み。
おまっ、勝呂くんに一体何を言ったんや!
ぐわっと志摩を睨むとふふんと鼻を鳴らし、「いいこと考えました〜!」と軽快な声を出した。
「変なことちゃうやろな」
「名前ちゃん、聞いてビックリしたらいけまへんで」
「はよ言え」
「ダブルデートするとかどうですかぁ」
「なんやねん、きゅ、急にっ、おいこら志摩!」
勝呂くんが顔を真っ赤にさせて志摩の胸ぐらを掴んだ。志摩は顔色一つ変えず、人差し指を伸ばす。
「リサちゃん誘って行こうやぁ」
「あ、ごめん」
「え?」
「リサちゃん、3組の中村くんが好きなんやって。ほら、サッカー部の」
「うそやー!」
志摩がうるさい声で叫ぶ。がっかりしてるのはなにも志摩だけじゃないのに。私だってダブルデートに行きたかった。勝呂くんと遊園地でも動物園でもどこでもいいから行きたい。
はぁ、とため息をつくと勝呂くんが初めて「苗字さん」と私の名前を呼んでくれた。うわ、なにこれ。まともに勝呂くんの顔が見られない!
「は、はい!」
「…そろそろ期末テスト近いやん?い、一緒に勉強せぇへん?」
「え?」
「…嫌やなかったら」
「嫌やない!す、する!」
嬉しいお誘いに舞い上がる。勝呂くんは安心したかのように少しだけど頬が緩んでた気がする。
これが青春ってやつだよね!
せい春真っ盛りの僕はまだ恋を知らない