「すき、きらい、すき、きらい、すき、きらい、すき……きらい!」


笑顔の意味を見極める力をつけよ


「何してんだ」

「あっ、奥村くん」


しゃがみ込んで花をむしりながらぶつぶつ呟いていた同じ祓魔師塾の彼女は、土で汚れた手を俺に向けた。と、同時にふんわり向けられる笑顔。

俺はそれを避けるようにして彼女の手を見た。


「や、あの、これは!」


あからさまに動揺している彼女は手に持っていた花びらのない花を背中に隠した。…や、もう見ちゃったんだけど。


「えっとね…しえみちゃんと押し花作ろうって話になってね」

「あぁ」

「だから、」

「…」

「ごめんなさい」


観念したような弱々しい声を出した彼女は、手についた土をポンポンと払いのける。

謝ってから顔を合わせらんないって顔をして眉間を歪めるから俺は疑問しか浮かばなかった。なんで謝るのか分からない。なんか悪いことしたか?


「なんで謝んの?」

「へ?」

「名前が謝るからなんでかなぁって思って。お前なんか悪いことした?」

「…花びら千切っちゃったから」


あぁ、そのこと。彼女は益々ばつの悪そうな顔をして俺を見る。

てか、なんで俺に謝んの?


「奥村くんって生き物大切にしそうなイメージがあるの。だから花びらを千切ってたイヤなとこ見せちゃったから謝ったの」

「は?」

「ごめん!あたし説明下手だよね!あのね、だから……だから、えっと」


『だから』とか『えっと』と呪文のように繰り返しながら彼女は至極困ったような表情をする。俺が頭悪いから理解力ないんだって言ってやりたかったけど、その姿がなんか面白かったから言うのをやめた。

俺がぷって笑いを込めた息を吹くと何故か彼女も笑顔になった。女子って笑うとかわいいもんだな。


「そういや花占いって当たんの?」

「み、みみみみ見てたんだ!」

「だってお前の声すっげえデカいし」


こんなんだぜ、と言って『くそったれー!』と彼女に背を向けて叫んでやると彼女は腹を抱えて笑い出した。

こんな笑い方もするんだ。


「奥村くんって奥村先生と似てないようでやっぱり似てるよね」

「雪男に?」

「うん!二人ともとってもいい人」


今度は照れたように笑う。

あぁ、花占いで占っていた相手ってもしかして…。色々考えたとき、ちょっと寂しかったってことは誰にも言わない。てか言えない。



(くそ、雪男のやつ!)
20110905