「奥村先生ってわたしがメガネ似合うねって言ったらコンタクトに変えるタイプだよね」
「…は?」
「うん、絶対にそうだ」
彼女は納得したように頷きながら見ていたチラシを机に置いた。
どうでもいいけど、早く帰ってくれないかな。早く帰りたいのに帰れない。
「先生ってメガネ似合うね!」
「コンタクトに変えるつもりはありません」
「えーつまんないのー」
どう説明していいのか分からないこの状況。
何故か授業が終わっても帰らない彼女に付き合っている。…どうして?
「いつもツンってしてるけど、わたしのこと嫌いではないよね」
「どうしてそう思いますか」
「帰れって言わないのがその証拠だよ、先生」
にこっと照れ臭そうに微笑んだ彼女はまたチラシを見始めた。
時間を見ればもうかなり遅い時間。いよいよ強制的に帰らさないといけない。
「もう帰ってください」
「じゃあ先生が寮まで送ってよ」
「どうして僕が」
「先生は私のこと好きじゃないの?」
何かを試すような態度、何かを見透かそうとする目。そのどれもが挑戦的に見える姿に僕自身、どう答えていいのか分からなくなる。
だから取りあえず、ありきたりな言葉を投げた。
「あくまでも僕たちは教師と生徒っていう関係です。それ以上でもそれ以下でもない」
「一応、同級生なのに」
むくれた顔をするからつい可笑しくて笑ってしまった。
「立場が違う。証拠に、君は僕を先生って呼ぶでしょ」
「じゃあ名前で呼ぼうかな」
「はいはい、お好きにどうぞ」
僕の言葉に一瞬戸惑いを見せた彼女。ほんの少し時間が止まったようだった。
僕が席を立ったのとほぼ同時だったか、彼女の切なげな声が響く。そんな声、今まで聞いたことがない。
「先生、ほんとはね、わっ、わたし!」
「(あ、耳が赤い)」
「恥ずかしくて先生の名前呼べないの!」
耳まで真っ赤にして何を言い出すのかと思えばそんなことか。
さっきまでの態度と打って変わったこの態度にまた笑ってしまった。
無理して強がる君もかわいいけど照れる君はもっと
「(申し訳ないけど笑ってしまう…くくっ)」
「(先生が大笑いしてるとこ見たの初めて!)」
20110904