女の私でさえ分かるあの子の魅力。

昨日休んでた人に「昨日休んでたけど大丈夫?」と優しく声をかけるあの子、
どんな人にでも笑顔を向けるあの子、
いつだって笑顔のあの子、

そんな彼女は、

「将来、王子様と結婚するんだ」

ちょっと夢見がちな子だった。



簡単に見つからない答えばかりなのに正解はあまりに単純



「それで?」
「うん?」
「はいそうですかって戻ってきたの?」
「何怒ってるんですか」


アレンがあの子を好きになってから何ヶ月が経っただろうか。私はクラスメイトとして、アレンの恋の応援をしている。本人には内緒だけど。


「ヘタレヘタレヘタレヘタレ」
「うるさい」


机に突っ伏したままのアレンは「お腹空いた。まだですか休み時間」と小さな声を出す。「まだ声出す元気あるから大丈夫でしょ」と私も小さな声を出した。

今は授業中。それも学年主任の物凄く怖いいつも木刀を持ち歩いてるような先生の授業。だからひそひそと話してる。


「悔しいよ」
「どうして」
「だってアレンいい奴じゃん」
「何フられた前提で話してるんですか」


クスッとアレンの笑う声。


「え、だってアレンって王子様キャラとは無縁だし」
「あぁそういうこと」
「そういうこと」
「大丈夫です。外面はいいんで」
「態度悪いのは私の前だけかい!」


つい大きな声を出してしまった。がたっと机を揺らして机の上をバンッと叩く。クラスのみんなの目が私に向けられた。もちろん先生の目も。

ピーンチ!


「どうした?」
「な、なんでもないです!」
「なんでもないだ?大きな声を出して俺の授業の邪魔をして、ただで済むと思ってるのか」


木刀で床をトントンと叩きながら先生が近づいてくる。ひいいい!やられる!


「いつの時代の教師ですか」
「あ?なんだってウォーカー」


でも先生やみんなの目は一気にアレンの方へ向けられた。もちろん私の目も。


「木刀で脅して、みんな怖がってます。集中できるわけないじゃないですか」
「なっ」


アレンは神田が言うような『モヤシ』でも、私が言うような『ヘタレ』でもなかった。

アレンが庇ってくれて嬉しくないわけがない。私を守ってくれたって思った。

一瞬、アレンから視線を外す。すると先生でも周りのクラスメイトでもない、少し遠くを見てみると…

あ。

瞳をキラキラさせてアレンを見ているあの子の姿が目に入った。良かったじゃん。アレン、王子様になれたじゃん。ほんと良かったね。

授業が終わって直ぐにあの子がアレンに近づいてきた。「かっこ良かったよ。ウォーカーくん、王子様みたい!」といつもの優しい声と笑顔をする彼女は、もうすっかり恋する瞳になってた。


「そんなことないですよ」


そしてそんな彼女に優しく返事するアレンの姿をもう見ちゃいられなかった。胸がきゅって締め付けられる。バッと席を立つとアレンが「どこ行くんですか?」と聞いてきた。

別にどこだっていいじゃん。


「別に」


そう素っ気なく答え、教室から出た。何これ。私ってすごく嫌な人じゃん。

急いで教室を出たけど行くあてもない。

確か前にもこういうことがあった。アレンと初めて喧嘩して、口聞かなくなって、それからアレンが他の女の子と話してて何かむかついた私は教室を出た。あの時はアレンが追い掛けてきて、色々何か言われて最終的に『友だちごっこやめませんか』とむかつく言葉を言われたっけ。でも私が必死になってそれだけはご勘弁をとか何とか言って謝って仲直りした。関係は壊したくなかった。

とりあえず、神田にでも愚痴ろうかと思う。話なんて聞いちゃくれないけど。

神田のいる教室の扉に手をかけた。その時だった。


「僕への当てつけですか」


アレンが扉を開けようとした手を握ってきた。それも真剣な顔をして。


「何それ」
「僕が自分以外の女子と話したから自分は別の男と、」
「そんなんじゃない!」
「またやきもちですか」
「またって!またじゃないもん!」
「これで二回目です」
「あ、アレンが、だって」


バレる。きっとこんな気持ちバレたってどうってことない。けど、今の関係が壊れるのが怖かった。親友として一番近くにいられたこの関係が壊れるのが怖かった。けど、そういうのもうどうでもいいや。


「私のせいで先生に目つけられてバカみたい!」
「…」
「アレン、自分で自分の評価下げちゃったんだよ!それも私のせいで!」


無茶苦茶なこと言ってるって分かってる。けど止められない。


「それに、私なんて庇ったら女の子みんながアレンを見るじゃん!」
「…」
「あぁいう時は私を庇っちゃだめなの!じゃなきゃ、私が困るの!」


はぁはぁと息を吐くのと同時に涙まで溢れた。廊下を歩く他の生徒の姿が視界に入り、思わず下を向く。そして、アレンに掴まれた手を振り払い、涙を拭った。

もう私の気持ちはバレてしまったかもしれない。暫くの沈黙が苦しい。けど、その沈黙はアレンによって破られた。


「好きな子を庇って何が悪い」
「好きな子って、」


何を言ってるのか分からなかった。アレンを見ると、アレンお得意の笑みをして見せる。


「こっちは僕が名前のことを好きだってヒントを出してあげているのに気づかないし。しかも僕が別の人を好きだって?そんなわけないじゃないですか」
「…」
「友だちごっこはやめませんか」


そして、むかつく言葉を言ってきた。でも前みたいにむかつかない。やっとこの言葉の意味を理解できた気がする。


「や、やめたい」


そう言うとアレンは私の手をもう一度握った。


「とりあえずこの手を神田に見せ付けときましょうか」
「え、なんで」


(単純なことです)
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