さいなら、
ちんこ潰れて死んでまえ!


元彼女に汚い言葉を吐かれたのはつい昨日のこと。何気に好みだっただけにショックが大きい。
帰り道の途中、急にキレだした彼女から一発鉄拳を食らった。一瞬何が起こったのか分からなかった俺は彼女の後ろ姿が見えなくなるまでぼーっとしていた。

多分、あれは夢だったんや。うん、だってなんか空がえらいきれかった。あんな綺麗な空見たことない。


「また彼女と別れはったんやって?」
「もう噂になっとんのやな。あれってやっぱ現実やったんか〜おしいことしたわ。あの子むっちゃかいらしかったのに」
「顔だけやん。あの子、かなり遊んではるから」
「せやからあんな激しいテクだったんやねぇ」


これで何連敗だろうか。付き合っては別れるの繰り返し。いつも『死ね』って言われて終わり。死ねって言うた相手がもしほんまに死んでしまったら悲しむのは自分の方やのに。や、悲しむわけないか。


「やっぱり私だったらあかん?」


名前ちゃんは俺にとって初めての彼女。でもそれ以前に坊が好きな子。初めに出会ったんも坊が先だった。別にそれがなんだって話なんやけど。坊は名前ちゃんのことが好きだなんて一言も言うたことがない。でも分かる。長年の友達やから。


「処女は好かへんもん」
「へぇ、男ってみんな処女が好きなんかと思っとった。なんか珍しい」


ただ、名前ちゃんは俺にとって特別や。初めての彼女だったっていうのもあるけど、もっと別の意味。

名前ちゃんが坊のことが好きって知っているのに告白したのは俺の方。彼女の断れない優しい性格を知っていて告白した。けどやっぱりうまくいかんかった。せやから俺からフったった。

解放したはずやのに、俺は新しい彼女と別れる度に名前ちゃんのせいにしてしまう。ほっとかれへん優しい名前ちゃんを知っていたからわざと言うていた。そんな優しい名前ちゃんは俺の思惑通り今もこうして構ってくれる。


「ほな処女やなかったらええ?」
「処女やなくても名前ちゃんは抱きたいって思わへん。やったら一人でヤっとった方がマシや」
「そう言うと思った」


寂しそうに笑う。自嘲じみた笑みを見て思わず目を塞ぎたくなった。

俺に新しい彼女ができる度に名前ちゃんと比べてしまう。その度に『前の彼女は、』っていうのが口癖になっていた。


「私の処女は志摩くんに捧げるって決めとるのに」
「そういうの、好きな人に言うたって」


そう言って笑うと名前ちゃんは「志摩くんのそういうとこに惚れてん」と言って笑みを零した。どんな言葉でさえ嘘に聞こえる。だって名前ちゃんの言葉や表情は嘘ばっかりやから。


「名前ちゃんは坊が好きなんやろ」
「…」
「分かってはるから」
「何も分かってへんやんか」


伸ばされた手が温かい。彼女の目がきらきら光っていてまた目を塞ぎたくなった。


「私が好きなのは志摩くんですえ」


いつの間にか鼻が真っ赤になっていた名前ちゃんは照れくさそうに笑いながら、あはっと邪気のない笑みを零す。

そこに嘘なんてどこにもなかった。



好きじゃない好きです好きじゃない好きです。うその仮面をかぶったそれはやがて涙ではがれ落ちる。それもきれいに



(俺も好き)

111010