「わー!何だこの点数!」

学生の本文は勉学だと言ったのは誰だろうか。




キスミーハグミールックミー




トイレから戻ってきた奥村くんに答案用紙を持って行く。どうか奥村くんよりは良い点数でありますように!


「奥村くんより悪い…」
「へっへ、雪男に教えてもらったからな」
「って言っても赤点すれすれじゃん!」
「赤点とってねぇからいいんだよ」
「うそだ!これは夢だ!何かの間違いだ!」


大きく書かれた点数に開いた口が閉じられない。奥村くんより悪いってどういうことだろうか。


「そういや雪男がお前のこと探してたぞ。…あっ、雪男」
「え、やだ、だめ!」


急いで奥村くんの机の下に身を隠した。お尻が入らないとか気にしない!
腕には答案用紙。この際ぐちゃぐちゃになって点数なんて見えなくなればいいよ!


「あ、いた」
「(わ、さっそく見つかった!)」
「何してるの」
「落ちた消しゴムを拾ってたの!」


慌てて立ち上がる私の腕を雪男くんはしっかりと支えてくれた。やっぱり優しいなぁ。
横を見るとと奥村くんがニタニタ笑ってる顔が見える。やめてよ、もしかして赤点とったのバラす気なのかな。


「どうだった?」
「へ…」
「英語のテスト」
「うん、まぁなんて言うか…こんな点数とったの初めてって感じ」


雪男くんは点数が良かったと思っているのか「それは良かった」とにこりと笑んだ。
なんとかバレずに済んだと思ったら奥村くんが大笑いしながら自分の答案用紙を雪男くんに見せつけた。


「見ろ、雪男!」
「…あれだけ教えてこの点数とはね。恐れいったよ兄さん」
「赤点じゃねぇからいいんだよ。それよりも…」


ちらっと奥村くんがこっちに目を向けた。わーわー!こっち見ないでよ!


「雪男に見せてやれよ、テスト。ぜってぇビックリするって」


奥村くんってなんて悪い人なんだろうか!


「へえ、そんなにすごいんだ。見てみたいな」


向けられた私の大好きで苦手な雪男くんの笑顔に負けた私は、答案用紙を渡した。




そして放課後、二人きりの教室。テストがあって中々こうして二人でいられなかった。だからと言って浮かれ気分じゃいられない。

改めてテストの答案用紙を見ながら愕然とする雪男くんは見ちゃいらんないくらいの呆れ顔。ため息が重い。

きっとこんな顔、奥村くんだってさせたことない。


「英語が苦手ってことは知ってたけどまさかここまでとは」
「…でもある程度は知ってるし、話せるよ!」
「例えば?」
「た、例えば…」


これ以上、雪男くんに呆れた顔はされられない。させたくない!
思いつくままに英語を言ってみた。


「キ、キス ミーとか」
「うん」
「ハ、ハ、ハグ ミーとか」
「うん」


机の上に開けてある参考書をずっと見たままの雪男くんは私の言葉に相槌をうつ。
目を合わせてくれないから少し寂しかった。そりゃ目が合ってたらそんなこと言えないけど!

あまりにも雪男くんが私の言葉に反応してくれないから口先を上にくいっと上げた。



「ルック ミー…」



静かな空間には調度いい大きさの声。こっち向いてよ、雪男くん!


「…何それ」


顔を上げた雪男くんは真っ赤な顔をして、口元を手で隠していた。
急に目が合ったからか、思わず目を見開いてしまった私はどうしようもなく緊張している。

慣れない気持ち。


「い、今言ったの全部、わ、私の気持ち!」
「じゃ、この英文に英語で返事できたら全部してあげる」


にこっと微笑んだ雪男くんは一枚の用紙を私に手渡した。

そこに書かれた"I love you."に思わず「私もだよ!」と叫んだ私を雪男くんは優しい顔をして笑ってた。
それからその顔も直ぐに意地悪な顔に大変身。


「英語で言わないと」
「ええっとね!」
「うん」
「オッケー アイ ラブ ユキオ!アイ ライク ユキオ ホット スマイル!」


必死に自分の知ってる単語を並べる。文法がめちゃくちゃだとか意味が合ってないとか気にしない。だけど雪男くんは私が何を言いたいのかを理解してくれたみたいだ。
雪男くんは「長い返事」と言ってふと笑みを零したあと、さらっとかっこよく私の胸に熱い何かを届けてくれた。


「ミー トゥー」


小さな声でそう言って笑う雪男くんは確かに私の一番大好きな人。

私は今日初めての笑顔を雪男くんに向けた。




(君さえいれば赤点をとっても私は元気でいられるのです)



20111001
ベビーピンクの花畑様へ提出。
恋人の雪男と英語のお勉強。
ありがとうございました!