誰ですか
 ある夜、俺はバイトを終え家路を急いでいた。特に用事があるわけではなかったが、最近レポートに追われ徹夜続きだった。その上バイトも休みなく入れていたので体力は限界を迎えている。早く帰ってそのままベッドにダイブしたい。そして全てを忘れ泥のように眠りたい。お腹が減っているが、今は食欲より睡眠欲を満たすのが先だ。若干フラつきながら足を進める。大通りから細い道に入ると、アパートはすぐそこだ。
 だが俺は、道端に何かが倒れているような気がして足を止めた。目を凝らすと少し先、白いワンピースを着た女の子が倒れている。何てタイミングだ。そう思いながらも放っておくわけにはいかない。彼女に近寄りそっと肩を叩いた。

「あの、ちょっと。大丈夫?」
「っ、う……」

 ああ、よかった。生きてた。少し安心したのも束の間、俺を見上げた彼女の顔は青白い。体調はすこぶる悪そうだ。

「救急車呼ぶ?」

 その問いかけに彼女はフルフルと首を横に振る。自分と同い年くらいだろうか。こんなに体調が悪そうなのに救急車を呼ばないなんて、まさか変な事件に巻き込まれたのではないか。とにかく親御さんにでも電話して……

「あの……」

 色々と考えていた俺の思考を遮り、彼女が声を出す。初めて彼女としっかり目が合って、その瞬間。体がカッと熱くなった。彼女の白い手が右手を握る。冷たく見えたそれは思った以上に温かく、まるで俺の手を包み込むようで。

「あなたの体液、ください」

 そこからの記憶は曖昧だ。気付けば自分のアパートの部屋のベッドで彼女に覆い被さっていた。激しく舌を絡め、まるで唾液を交換するように深くキスを交わす。そのまま彼女の服を脱がせていく。
 ……俺、何してんだろう。頭の中だけは冷静で、でも体はどんどん熱くなっていく。
 自分は理性のあるほうだと思っていた。自分を好きだと言ってきた女が服を脱いで迫ってきても何も思わなかった。今までセックスの時に我を忘れたこともない。
 けれど、今は。食欲も睡眠欲もどうでもいい。性欲しか自分の中に残っていないような、そんな感覚。
 彼女の体は魅力的だった。出るところはしっかり出、そして引っ込むところはしっかり引っ込んでいる。豊かな胸に顔を埋め、片手を背中に回しブラを外す。現れたピンク色の乳首に俺は無我夢中でむしゃぶりついていた。

「あっ、んん!」

 甘い声がまた俺の体を熱くする。色が変わっている部分を舌でなぞり、彼女の期待に塗れた瞳が自分を見下ろしているのに気付き、ニヤリと笑う。その笑みに彼女の体はフルフルと震えた。

「何?」
「んっ、ん……、舐めて、ほし」
「どこを?」
「雪音の、ちくび……」

 へぇ、雪音って名前なんだ。思いがけず手に入れた彼女の情報を頭の中で反芻しながら、でもまだ彼女の欲しい刺激はやらない。白いワンピースはお腹のところでもはや服の意味を成しておらず、内股を撫でながらその手をどんどん上にやった。また彼女が期待に体を震わせる。

「どんだけエロいのあんた」
「っ、うう、ち、あき、くん……お願い……」

 ……何で俺の名前知ってんの?つーか体調悪いんじゃなかった?ハッとしてようやく冷静になる。が、彼女の手が頬に触れ、目が合った瞬間全てがどうでもよくなった。また性欲だけが高まる。
 俺は彼女のピンク色の勃ち上がった乳首をペロリと舐めた。彼女は待ち望んだ刺激に体をビクビクと痙攣させる。そして同時に下着の上から敏感な突起をくにっと押され、悲鳴のような声を上げて達した。……これだけでイくのかよ。どんだけエロいんだほんと。頭の中で思いながら、愛撫を続ける。
 彼女はダメ、だとかそれ以上したら、と言いながら必死で俺の頭を抱き締めている。まるでやめないで、と言っているかのように。乳首を舐めたり甘噛みしながら、ぐっしょりと濡れた下着の中に指を入れる。直接の刺激に彼女は耐え切れず、涙を流した。

「泣くほど嫌?それとも、泣くほど気持ちいい?」

 乳首から顔を離した俺は彼女の涙を舐め取りながら尋ねる。そして同時に指で触っていた突起を押した。

「ひゃ、ああん!」

 ビクン、ビクン。彼女の体が痙攣すると同時、ぶしゃっと液体が飛び散る。体を起こすと、俺の服やベッドまでぐっしょりと濡れている。え、まさか、潮……?これだけで?驚く俺に、彼女は涙目になりながら起き上がる。

「っ、ごめんなさい……」
「いや、ビックリしただけ」
「お詫びに、私にさせてください」

 は?その言葉を理解する前に、彼女の白い手がベルトに伸びる。ベルトが外れる音やチャックが下がる音まで今の俺には欲望を増大させる効果しかない。
 彼女の白い手がパンツを下ろした時、固く勃ち上がった自身が跳ねるように現れて。彼女はまるで愛しいものでも見るかのように目を輝かせそれに頬擦りをした。

「智明くんの……」
「ちょ、ま、」

 待って、という言葉を智明は呑み込まざるを得なかった。パクリと、何の躊躇いもなくそれを口に含んだ彼女の口の中は、腰が震えるほど気持ちよかったから。熱く、そして舌が絡みつく。吸いながら舌を絡ませる彼女は、濡れた瞳で俺を見つめている。その光景はまるで現実のものとは思えなくて、でも感覚だけは生々しい。精子が昇ってくるのが分かる。じゅぷじゅぷと卑猥な音を立てながら小さな口を出入りするのを見ていると、まるで俺は彼女に精子を吸い取られるのではないかという気持ちになって。

「うぁ、イく……!」
「ふぁひふぇ」
「そこで、しゃべんな……っ」

 ドクン、と。彼女の口の中でそれが震えたと同時。目も眩むほどの快感。ようやく我に返った時には、彼女は嬉しそうに精液を飲み込んでいた。

「んん、やっぱり智明くんの精子美味しい」
「美味しいわけないじゃん……」
「美味しいよ、だから、もっとください」

 彼女は未だ固さを失っていない智明の自身に触れる。そして自ら跨ると濡れそぼった中心にあてがい、一気に挿入した。

「うぁ、ちょ、ダメ、生は……っ」
「あぁん、ん、やっぱり気持ちい……」
「ちょ、ダメだろ、ゴム、」
「大丈夫、私今、絶対妊娠しませんから」

 何の自信だそれ。よく分からないけど、でも、今更ここから脱け出す気持ちにはなれない。口と同じくらい熱いそこは、無数の襞がバラバラに絡み付いて驚くほどに気持ちがよかった。腰が震える。余りの快感に眉を寄せる俺の額に、彼女は口付ける。

「気持ちいいです、智明くん」

 彼女が腰を動かすと、思わず声を上げた。すぐに出そうだ。でも、男として自分だけ気持ちよくなるわけには、そんな葛藤も呑み込まれていく。

「智明くん、イキそ?」
「っ、うるさい、ほんと……っ」
「ねぇ、雪音に智明くんの精子ちょうだい?」

 その言葉が合図だったかのように、俺は熱い彼女の体内に精子を吐き出した。余りの快感に放心状態。心なしか自分の体液を体内に取り込む度彼女は元気になっていく気がする。恍惚として俺の体液を感じていた彼女の中で、自身はまた大きくなって。それを感じたらしい彼女がまた貪るように腰を動かそうとした時。

「きゃっ?!」

 俺は彼女を押し倒し、足を大きく開いた。

「やられっ放しで、終われると思う?」

 ゾクゾクとした表情で口をハクハクさせる彼女を息もできないほど揺さぶっていく。彼女は簡単に達して、それでも全然足りなくて。二人とも何も考えられないくらい、ひたすら体を重ねた。頭がおかしくなりそうなほどの快感に溺れていく。それでも、何度吐き出してもまだ足りない。そしてその度彼女は元気になっていく。何かおかしいと思いながらも止めることができなかった。

***

 ハッと目を覚ますと辺りはまだ暗かった。恐る恐る目線を下げるとそこには、さっきまで体を重ねていた名前しか知らない彼女が自分に抱きつくように眠っている。それにしても幸せそうな寝顔だ。
 カタン、と、小さな音がした。そしてソファーに座っている男と目が合って、慌てて起き上がった。

「随分お楽しみだったようだな。精子くせぇ部屋」

 男の腹の底に響くような低い声が後悔を刺激する。
 ……俺、何やってんだろう。知らない子を連れ込んでセックスして、しかも中出し……、はぁ、と頭を抱えた。

「……後悔しなくてもいい。お前のせいじゃねぇよ。理性を失ったのはな」
「……。つーかあんた誰ですか」
「怪しいもんじゃねぇ。ソイツの保護者みたいなもんだ」
「犯罪者より気まずいじゃないですか……」

 ハハッと男が笑う。暗い室内で、男の煙草の火と二つの瞳だけが光っていた。

「……なぁ、もう分かってんだろ?ソイツ、人間じゃないって」
「……っ」

 見つめられるだけで高まる性欲、熱くなっていく体。何となく、普通じゃないなとは思っていた。

「俺たちは淫魔だ。人間の体液が命の源」
「……」
「そこでお前に頼みがある。ソイツをしばらく預かってくれないか」
「は……?」
「どうやらお前のことを気に入っちまったらしい。お前以外の体液は摂取したくないそうだ。……だが、お前ら人間が何も食べなければ死ぬように、俺たちも人間の体液を摂取しないと死んでしまう。昨日死にかけたソイツを見ただろう」

 そういうことか、とようやく納得した。ヒトじゃないものがすぐ近くにいるのは信じられない気分だけれど。それ以上に、コレがヒトだというほうが信じ難いから。拾った時はぐったりしていたのに、俺の体液を摂取する度元気になっていった理由も、分からないけれど分かる。

「唾液、精液、何でもいい。三日に一回ソイツに与えてやってくれ」
「っ、でも……」
「観察していたところ今彼女はいないようだし、お前もいい思いができる。ソイツとのセックス、最高だっただろうが?」

 口角を上げたのだろう、男のギラギラと光る二つの瞳の少し下、真っ白な歯が覗く。確かに気持ちよかったけど……何かムカつく。
 唇を噛んだ俺に男は笑う。そしてソファーから立ち上がった。

「俺も可愛い弟子が死ぬのは嫌なんだ。頼むよ」
「……」
「あ、あと中出ししても妊娠しねぇから。詳しいことはソイツに聞いてくれ」
「……」
「あ、そうそう。一つだけ約束。……絶対、ソイツのこと好きになるなよ」

 それだけ言って、男は消えた。と言ってもちゃんと玄関から出て行ったけど。どうやって入ったのだろう。あ、俺鍵閉めてなかったっけ。
 そんなことを考えながら、幸せそうに微笑み寝ている彼女に視線を落とす。……もう、細かいこと考えるのは明日でいいや。眠いし。疲れたし。俺はフラフラと倒れ込むようにベッドに寝転び、そのまま眠ってしまった。
prev * 1/1 * next
+bookmark
TOPBACKSERIES2
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -