甘える方法
 何度抱いたかなんて覚えていない。初めて体を重ねた時は俺も初めてで、辛そうなのに必死で俺を受け入れようとする真琴に更に体が熱くなってあまり手加減もしてやれなかった。思えば俺は真琴の体を気遣って優しく触れてやったことはあるだろうか。今だって。俺は強引に、身勝手に。こうして真琴に触れてしまう。

「っ、あや、とくん」

 酒のせいか、それとも俺が触れているせいか。火照って赤くなった真琴の胸を唇でなぞっていく。真琴は俺の髪をくしゃりと握って背を仰け反らせた。
 昔から、自分が抱きたい時に真琴に触れて真琴が甘えてきた時はあまり相手にしてやらなかった。それでもコイツは俺から離れなかったから。俺の身勝手は増長して、傷付けて。
 俺は優しくない。だから、もっと優しい奴といたほうが幸せになれんじゃねぇか、俺よりもっとコイツにふさわしい奴がいんじゃねぇか。そんなこと考えたこともない。俺が真琴に触れたいから、他の男のものになったら困る。それだけ。

「なぁ、」

 太ももを撫でる手はそのままに、俺は真琴を見上げた。潤んだ瞳と半開きの口。このエロい顔がたまらなく腰に来る。はあ、と熱い息を吐いてその唇に自分のそれを押し付けた。弱いくせに調子に乗って飲みやがって。思えばこうやって二人でゆっくり家で酒を飲んだのは初めてかもしれない。酒を飲んだコイツがこんなにエロくなることを知らなかったなんて。

「会社の飲み会とかどうしてんの」

 唇を離してそう尋ねると、真琴は質問の意図が分からなかったのかトロンとした目で俺を見上げた。俺だけじゃねぇだろ。お前に興奮すんの。その言葉が言えなくて、俺は首筋に顔を埋めた。
 どこもかしこも甘い、なんて。馬鹿みたいに思う。突然押し倒して服を剥いで、貪るように愛撫して。そんな抱き方しかしたことがないから今更言えない。お前を抱いてる時が、一番幸せかもしれない、なんて。

「綾人くん……」
「ん、なに」
「何か今日優しいね?」

 戸惑ったように、何かを恐れているように、それでも嬉しそうに真琴は微笑む。
 ……正直、何もかもがどうでもよくて。別に複雑な生い立ちだとか、心に傷があるだとか、全然そんなことはないのに。昔から何に対しても執着がなくて全てが怠く思えていた。真琴でさえも。いつも俺の近くにいて、ただ俺を受け入れようとしてくれて、そんな真琴がいつの間にか一番大事な存在になっていた。それに気付いたのがコイツが離れようとしてからだったなんて、情けないにも程がある。

「真琴」
「なに?」
「お前が不安になるなら何回でも言うけど」
「え?」
「俺から離れることは絶対ねぇから」

 好きな子には優しくしたいって昔誰かが言ってた気がするけど。その気持ちを今更になって知った。優しくしたい。真琴には。触れたいだとかそんな欲望を我慢してもいいかと思えるほどには。
 真琴は泣きそうになって俺にしがみついてくる。柔らかい肌を撫で、キスを落とす。真琴が安心するならこうやって抱き締めているだけでもいいか、なんて。ふっと笑うと真琴は目を見開いて俺を見た。

「あやとくん」
「……なに」
「私、綾人くんの素の笑顔、すきだよ」

 ふわりと笑う真琴にため息を吐きたくなる。せっかく人が我慢しようと思ってんのに。

「……なぁ」
「なに?」
「俺も好きだよ」

 優しくするから。お前が望むなら、どんな俺にだってなるから。だから。

「……俺を、嫌いになるな」

 結局、俺がコイツに甘えている。いつだってそうだ。こうやって必死に懇願して。

「……ならないよ」

 頭を撫でる小さな手に安心して、俺は目を瞑った。情けないほどに、俺は真琴を必要としている。
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