それは後にも先にも一度だけ
 何もかも気に入らない。俺は最近、何かにとてもイライラしている。だがその原因が分からない。それもまたイライラの原因の一つなのだが。


「アヤトー、もう探したよぉ」

 屋上で寝ていた俺の上にのしかかってきたのはユナ。豊満な胸が俺の胸板に当たる。

「んだよ乗んな」
「いいじゃん。ね、エッチしたくならない?」
「ならない」
「チェッ。アヤトってちゃんと勃つの?」

 俺の股間に乗っかって擦り付けてくるユナを無理やり下ろす。ユナとヤッてないと同級生に言ったら哀れな目で見られた。「お前、イケメンなのに不能なの?」と。不能なわけじゃない。ユナには勃たないだけだ。
 ユナは出るところはしっかり出て締まるところはしっかり締まっている。男たちにとってヤリたい女No.1らしいが俺はそうは思わない。俺はもっと、小柄で胸も手のひらサイズで控え目な女がいい。そう、例えば……。

「あ、水沢ちゃん?あの子確かアヤトの幼馴染だよねぇ」
「……」
「最近委員長と仲良いよね。付き合ってんのかな」

 委員長こと内野は今年真琴と一緒にクラス委員をしているらしい。屋上から見える真琴の席の前の席に座り2人で楽しそうに話している。あの距離感を見たら確かに誰でも2人が付き合っていると思うだろう。

「ね、アヤトどうなのー?知ってる?」
「……」
「幼馴染なのに知らないのー?」
「うるせー触んな」
「あっ、ちょっと、教室戻んのー?」

 知ってるっつーの。アイツは俺が呼んだらすぐ来んだから。

***

「今日は早かったんだね」

 俺の部屋に控え目に入ってきた真琴はベッドの前に座った。髪から覗くうなじに欲情して腕を引く。服も着たまま真琴のイイところを愛撫した。

「綾人くん……っ」

 ほら、真琴のやらしい顔を見れんのは俺だけなんだよ。どれだけ笑顔を向けても、どれだけ楽しく話しても。真琴のこの顔は、唯一俺だけのもの。

「あっ、んん」
「声我慢すんな」
「だって、お母さんが……」

 必死に声を我慢するのも悪くない。でも、母親でさえ。真琴の思考を俺以外の奴が持っていくことが許せない。
 内野と楽しそうに話す真琴が突如頭の中に蘇って心の中を黒い感情が覆った。イライラする。腹が立つ。俺が呼べばすぐ来るくせに。俺の前で他の奴と楽しそうにすんじゃねー。

「真琴」
「んっ、なに……」
「お前ムカツク」

 分からない。どうしてこんなにイライラするのか。どうして頭の中が真琴でいっぱいなのか。分からない。イライラする。
 真琴の体を乱暴にかき抱き八つ当たりのように優しくないセックスをする。それでも真琴の中にいる時は安心できた。離れて行く時にまた、イライラが募る。

 俺はもしかして、真琴を誰にも渡したくないのかもしれない。

 頭の中に浮かんだ答えに見ないフリをした。17歳の夏、体だけ大人になっていく俺を置いていくように、真琴は大人びていく。それに気付いたのは、真琴に別れを告げられた時だった。
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