てのひらのおきにいり
 綾人くんの余裕な表情を崩したいというのは、私がずっと思っていたことだった。今まで綾人くんに遠慮ばかりしていてそんなことできないと思っていたけれど、今の綾人くんなら許してくれるような気がする。
 久しぶりに二人の休日が合って、二人でゆっくりしていたある日曜日の午後。私は漫画を読んでいたのだけれど、映画を観ていた綾人くんがソファーで寝てしまったのだ。しばらくは無邪気な寝顔を見ていたのだけれど、何となく悪戯心が湧いてきて。私は綾人くんのふっくらとした唇をぷにぷにと触ってみた。少し開いた唇の間から聞こえるのは穏やかな吐息。綾人くんの胸は規則正しく上下に動いて。

「……すき」

 愛しい気持ちが止まらなくなる。こうやって、何でもない瞬間に私はやっぱり綾人くんのことが大好きだと自覚して、そして。

「綾人くん……」

 ゆっくりと顔を近付ける。唇が重なった時、ドキドキしすぎて心臓が爆発しそうだった。もう何年も付き合っていて、数え切れないくらいキスしたのに。どうしてこんなにドキドキするんだろう。

「綾人くん、大好き」

 下唇を自分の唇で挟んで、次に甘噛みする。綾人くんはん、と小さく声を上げた。でも眠っている。疲れてるんだろうな。自分からこんな風にキスするなんて、恥ずかしいから起きないでほしい。でも、起きて構ってほしい。抱き締めてほしい。お腹の上に置かれた手に自分の手を重ねて、長い指に自分の指を絡ませる。綾人くんの体温が、感触が、私の心臓をぎゅっと掴んで。

「綾人く……」
「……真琴」
「……っ!」

 突然綾人くんの目が開いた。反射的に離れようとしたのに、繋いだ手を引かれた。

「……もっと」
「っ、え」
「もっと、言って、好きって。もっと、キスして」

 もう片方の手で私の頬をそっと撫で、甘えるように、何よりも大切なものを見るような目で、私を見る。

「あや、と、くん」
「ん」
「すき」
「うん」
「だいすき……っ」
「うん、俺も」

 また重ねた唇は甘くて、熱くて。ぎゅうっと抱き締められて、私はうっとりと目を閉じたのだった。
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