君色の世界
 家に帰ってドアを開けたらリビングの電気が点いているのが目に入った。朝から夜遅くまで仕事で疲れ切った体からふっと力が抜ける。

「ただいま」

 だが、その言葉に返事はなかった。テレビはついている。不意にソファーの端から足が見えた。

「……寝てんのかよ」

 キッチンには明らかに晩ご飯を作った形跡がある。きっと仕事終わりにここに来てご飯を作ったんだろう。別にいいけど、来るなら連絡くれといたら真琴の好きな店でケーキくらい買ってきたのに。そこまで思って、今日は朝から携帯を一度も確認していないことに気付いた。俺が携帯を常に放置していることはもちろん真琴も知っているから、連絡しても無駄だと思ったのだろう。
 ソファーの前に移動して寝顔を盗み見る。馬鹿っぽいというか、間抜けというか、無邪気というか。子どもみたいな寝顔は本当の子どもの頃から全く変わっていない気がする。子どもの頃。真琴の寝顔を見るのが好きで、寝たフリをして。真琴が眠った後寝顔を見つめていたのを思い出す。それも、変わっていない。昔と違うのは、ただ。純粋な気持ちに劣情が混ざっていることだけ。

「……真琴」

 起きなかったら抱くぞ。仕事の後で疲れてんのは分かるし寝かせてやりてーとも思うけど。真琴が無防備なのが悪い。
 少し開いた唇に唇を寄せる。真琴の唇が柔らかいことはよく知っているから。この唇に触れられるのは、生涯俺だけでいい。
 唇を合わせて、寝息を奪う。身をよじらせた真琴の体を抱き締めて、俺は強引に真琴を起こした。

「ただいま」
「あ、綾人くん、おかえり……」

 目が覚めたばかりで状況がよく分かっていないらしい真琴は、それでも俺の肩をきゅっと握った。

「ここがいい?ベッドがいい?」
「え……っ」
「悪いけどヤらないって選択肢はない」
「あ、綾人くん……」

 何回も何回も、もう数え切れないほどセックスしてんのに何でこんなに恥ずかしがるのか。ふっと笑うと、真琴はコツンと俺の胸に額を預けた。

「べ、ベッドが、いいです……」
「了解」

 抱き上げて、ベッドに向かう。その間も何度もキスをしながら。真琴の甘い香りに、脳が麻痺していくのを感じていた。
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