初めての経験
「彩が俺に会えなくて寂しい時、こうやって触ってな。俺に触られてると思って」

 悠くんはそう言ってニヤリと笑った。

***

「あー、疲れたー」

 高校の教員は忙しい。今日も仕事から帰ってきてソファーにダイブする悠くんの背中を叩いて、「そのまま寝ちゃダメだよ」と声を掛ける。前にそのまま寝てしまい、ベッドまで運ぶのに苦労したのだ。しかも悠くんはしっかり風邪を引いた。

「彩ー、おいで」

 仰向けになった悠くんが手招きをする。そう言えば最近ぎゅってしてもらってないかも。多分犬だったらぶんぶん尻尾を振っていただろう。私は喜んで悠くんの胸に倒れ込んだ。

「あ、もしかしてもう風呂入った?」
「うん、何で?」
「いつもよりシャンプーの匂いが強い」
「え、変な匂い?」
「んーん、ムラムラする匂い」
「へ?……あ、ちょっと!」

 悠くんの手がそろっとお尻を撫でる。痴漢みたいな触り方しないでほしい……。

「えっちしよ」
「ええ?!ちょ、ご飯は……」
「先に彩を食べたい」
「変な言い方しないで!ご飯……。それに疲れてるんでしょ」
「んー、疲れてる。だから今日は彩ちゃんに頑張ってもらおうかな」

 その言葉の意味を必死で考えているうちに、視界が反転した。悠くんの肩越しに天井が見える。軽く胸を押したけれどもちろん悠くんを止めるほどの力ではない。
 はじめから深いキスだった。噛み付くみたいに唇を奪われ、舌が口内を這う。絡め取られた舌は逃げても逃げても追い回される。すぐに頭がぼーっとしてきた。

「俺さ、はじめ抵抗してた彩がキスされてトロトロの顔になるの好き」
「いじわる……」
「可愛すぎて疲れてても抱きたくて仕方なくなる」

 興奮した目で私を射抜いて、悠くんはまた唇を重ねた。舌で翻弄されているうちに手が服の中に入ってくる。寝る時はパジャマの下にカップ付きのキャミソールを着ているから、ずらすのは簡単だ。やわやわと胸を揉んでいた手が一番先にある突起をきゅっと摘まんだ。

「んんっ」
「かわい。彩乳首好き?」

 いつもクールを装っている悠くんはえっちの時だけすごく甘々になる。私しか知らない一面なのかなと思うとすごく愛しい。

「ん、乳首いじられるのすき……」

 悠くんの喉が上下したのが分かった。乳首をいじっていた手が止まり、代わりにぱくりと口に含まれる。ひゃん、と変な声が出て慌てて口を手で塞いだ。

「だーめ。ちゃんと声聞かせて。俺しか聞いてないから」

 甘い声でそう言うと、悠くんはまた胸の先を口に含んだ。ちろちろと舌の先で舐められたかと思うと、わざと周りに舌を這わせて焦らす。どんどん熱くなっていく身体に私は素直に身を委ねた。

「んん、あっ、悠く、」

 悠くんの肩の辺りのシャツをぎゅっと握る。悠くんは少し起き上がって服を脱いだ。そしてその辺にぽいっと放り投げる。皺になる、と思ったのは一瞬で、すぐに視界は悠くんでいっぱいになった。

「彩も触って」

 手を取られ、誘導された先にはスラックスを押し上げる熱くて固い悠くん自身。そろそろと撫でると、悠くんは少しだけ息を漏らして再度私の唇を奪った。舌を絡めながら、ベルトを外しパンツの中に手を入れる。直接触ったそれは重くて熱い。いつもこれがナカに入っているのかと思うと少し驚く。少し握り、上下に扱く。慣れていないからやり方は分からないけれど、触っていたいな、なんていやらしい気もちで頭の中がいっぱいになった。

「彩」

 私を至近距離で見つめる悠くんの目の端が赤い。興奮している時の顔だ。もう片方の手でそろりと腹筋を撫でる。固くて男らしい身体。どこもかしこもふにゃふにゃで柔らかい自分の身体とは全く違う。当たり前なんだけど、男の人なんだって実感してまた脳が熱くなる。

「イキそうだからだめ」

 そう困ったように言われて手を離される。む、と口を尖らせたら苦笑いされた。

「彩も気持ちよくなって」

 ソファーに座らされて、万歳して、と言われてその通りにするとキャミソールごとパジャマを脱がされた。床に座った悠くんがズボンとパンツを脱がす。

「足ソファーに乗せて」

 言われた通りにすると、悠くんがずいっと顔を近づけた。恥ずかしいところが丸見えだ。

「濡れてる」
「やっ、恥ずかしい……」
「ねぇ、彩」

 悠くんは宥めるみたいに甘ったるい声で名前を呼んだ。きょとんとしていると、また手を持って誘導される。でもその先は悠くんの身体じゃなくて自分の身体だった。しかも、悠くんにキスされて胸を愛撫されて濡れている、一番恥ずかしいところ。

「自分でやってるの見せて」
「なっ……!」
「したことある?」

 首を横にブンブン振る。本当にしたことない。自分のそこなんてお風呂とトイレ以外で触ったことない。

「じゃあ教える」

 悠くんの手に掴まれた人差し指が突起に触れた。ぴくんと身体が跳ねる。いつも悠くんに触られるとすぐに気持ちよくなっちゃうところだ。

「やだ、自分でなんて、や……っ」
「彩が俺に会えなくて寂しい時、こうやって触ってな。俺に触られてると思って」

 悠くんはそう言ってニヤリと笑う。悠くんに操られた人差し指はクニュクニュと突起を弄って、気持ちよくて息が切れる。自分で触っているという背徳感と、すぐそばで悠くんが見ているという羞恥心と。どちらも私の頭の中を支配して、でもどんどん快感が勝ってくる。
 気付けば悠くんの手は離れていて、無意識に自分で指を動かしていた。それに気付いても指は止められない。どんどん昇りつめていく。

「あっ、やぁ、悠くん、イッちゃいそ……」
「いいよ、イッて」

 太ももに悠くんがキスを落としていく。全部全部、快感になって。

「っ、あっ、あああっ」

 ビクン、ビクンと身体が跳ねて、ようやく指が止まった。頭の中が真っ白になる。自分の指でイッちゃった……。

「可愛い、彩」

 悠くんがパンツを下ろすのをぼーっと見ていた。パンツから飛び出した悠くん自身はお腹につきそうなほど反り返っていて、あまりの卑猥さに息を呑む。今からあれが私のナカに入ってくるのかと思うと期待でどろりと蜜が溢れ出すのが分かった。避妊具を着けた悠くんが私に覆い被さってくる。抱き付いて、キスを受ける。ピト、とそこに宛がわれたそれがゆっくりとナカに入ってきた。

「あ、ああ、すごい、」
「彩のナカも、すげー熱くて気持ちいい……」

 悠くんの整った顔が快感に歪む。ぶっきらぼうなのに優しくて、絶対に私が嫌がるようなことや傷付くようなことはしない。そんな悠くんを、私も大事にしたいと思うのだ。
 ゆっくり入ってきたせいで形まで分かるような気がする。悠くんと繋がっている、と実感するから好き。悠くんの頬を両手で挟むと、快楽に支配された目が私を見た。

「ん?」
「大好き」
「あんま煽んなよ」

 苦笑いして、腰を動かす。熱くて固いソレが私の内側を擦る度、息が洩れた。二人だけの空間で、二人しか知らない秘め事。互いだけが知る、互いの感じるところ。

「あっ、あっ、んんっ」
「はぁ、あや……」

 片時も離すことなく唇をくっつけて、手を繋ぐ。このまま溶け合えたらいいのになんてありきたりなことを考えた。首に抱き付くと悠くんの男らしい手が腰に回る。逃げられない私に、悠くんの腰の動きが早くなる。

「あっ、だめ、きもちい……っ」
「イッて、彩」

 気持ちいいところを抉られる。快感から逃れる術はなく、必死で悠くんにしがみつく。昇りつめる。体中に力が入る。そして。

「あっ、ああああっ!!」

 頭が真っ白になって、全身の筋肉が弛緩した。悠くんは苦しそうに息を吐きながら私の顔中にキスを落とす。そして私が落ち着いた頃、体勢を変えた。うつ伏せになって、お尻だけ高く上げられて。いやらしいところが全部悠くんから丸見えだ。恥ずかしがる間もなく後ろから挿入される。固いそれが一番奥まで来ると、少し冷めかけた体温が一気に上昇した。

「悠くん、きもちい……っ」
「俺も。彩……」

 背中にいっぱいキスをされて、後ろから胸や、さっき自分で触ってイッてしまった突起を弄られて。ソファーが軋む音が響いた。

「彩、イッていい……?」

 耳元で囁かれ、コクコクと余裕のない中必死で頷く。悠くんは体勢を起こすと今までにない激しさで腰を打ち付けた。

「や、あ、ああっ、だめ、またイッちゃう……」
「一緒にイこ、彩」

 一番奥をコツコツ突かれる。苦しいのに気持ちいい。息ができなくなるほどの快感に溺れて、そして。

「あっ、ああっ」
「っ……」

 避妊具越しに欲望が爆ぜるのを感じた。

***

「あ、晩ご飯……」
「自分でやる。彩は寝とけ」

 二人の体を綺麗にして、ぐったりして起き上がれない私の頭を撫でて悠くんが立ち上がった。珍しく鼻唄なんか歌いながらキッチンに立つ悠くんを見ていると自然と頬が緩んだ。

「あ、そうだ彩」
「へ?」
「俺がいない時に自分で弄んのはいいけどちゃんと俺にも触らせろよ?」

 あの時はそれほどなかった羞恥心が一気に襲ってきて恥ずかしくて死にそうになる。

「わ、忘れて!」
「絶対無理。しばらくオカズにできるわ」
「……っ、最低!」

 顔を真っ赤にして怒る私に、悠くんはとんでもなくニヒルな笑みを見せたのだった。そんな顔もカッコいいから許しちゃう私の馬鹿……!
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