永遠を半分あげる
 先生と付き合えたのは奇跡だと、高校を卒業して一年経った今も思う。左手の薬指の指輪を見る度に実感してニヤニヤしちゃうけど。でも、高校生の頃の私にはこんな未来が来るなんて、想像も出来なかったから。
 用事があるから高校に行くけど大橋も行く?三木書店のバイト中に山下が来てそう聞いてきた。高校。先生は私の母校で今も働いている。つまり、高校に行けば先生がいる。

「んー……、山下が一緒に来て欲しいなら行ってもいいけど」
「何高飛車になってんの。顔弛んでるの隠せてないよ」

 大島くんが私を見もせずにそう言ってきた。大島くんは相変わらずクールだ。山下はニコニコしながら私を見ていて、何とも居たたまれなくなって、私は俯きながら小さな声で「……行く」と言った。
 先生に明日高校に行くことを連絡しておこうかと思ったけれど、「ふーん」としか言われなさそうだったからやめておいた。それに、驚く顔のほうが見たいし。
 次の日、高校の前で山下と待ち合わせして入った。時間はちょうど昼休み。山下の用事があると言う職員室へ行った。無意識のうちに先生を探したけれど、先生はいなかった。どうせ数学科準備室だろうな。
 山下の用事はすぐに終わって、私たちは職員室を出た。山下が「昼飯食べて帰ろう」と言って、「うん、そうだね」と返しながらもキョロキョロと先生を探していた。その時、「あ」と山下が立ち止まった。その視線の先。相変わらず大勢の女子に囲まれている先生が歩いてきた。
 先生は私たちに気付かず女子生徒と談笑している。その子たちはみんな可愛くて、ベタベタと先生の腕や背中に触る。高校生の時に、毎日のように見ていた光景のはずだ。なのにどうして、こんなにイライラするんだろう。

「一……」
「行こう」

 先生を呼ぼうとした山下の腕を掴んで先生とは反対方向に向き直った。やだ。なんで。簡単に女の子に触らせるなよ。腹立つ。先生に触れていいのは、彼女である私だけ……

「彩香!」

 山下を引きずりながらズンズン歩いていたら、突然後ろから名前を呼ばれた。誰の声かなんてすぐに分かる。イライラして、でも追いかけてきてくれたのが嬉しくて、名前で呼んでくれたのも嬉しくて。ああ、私の頭の中、ぐちゃぐちゃだ。

「……何」
「来るなら連絡しろよ。ビックリすんだろうが」
「先生、誰ー?」

 後ろから女の子の声が聞こえる。またイライラが大きくなって、振り向くことすら出来なかった。

「あ?彼女」

 ……言った。普通に言った。先生は山下の腕を掴む私の手を掴んで、そのまま歩き出した。山下が後ろから「先に帰ってんぞー」と言っているのが微かに聞こえた。
 先生がやって来たのはやっぱり数学科準備室だった。ドアが閉まった瞬間、ギュッと抱き締められて次に両手で頬を包み込まれる。強制的に合った視線。先生はふっと笑った。

「チューしていい?」
「っ、聞かないで、」
「いや、妬いてる彩に突然したら怒られるかなぁと思って」

 ……全部バレてる。悔しい。悔しい悔しい悔しい。でも、触れて欲しい。

「っ、先生の意地悪……!」
「ヤッベ、その顔可愛すぎて勃つ」
「なっ……、んっ」

 噛み付くようにキスをされて、次に唇を舐められた。ぬるりと口内に入ってくる舌が丁寧に、甘ったるく私の舌を追いかけてくる。はっ、はっと初めから息が漏れて、膝から力が抜けて先生に腰を抱かれた。

「先生の意地悪、変態、スケベ野郎……っ」
「今更だろ」

 先生の胸を叩いた手を握られて、また唇が重なる。結局先生のキスに翻弄されて、私の中のイライラなんてどこかに吹っ飛んでいたのだった。

***

「じゃあね」
「おー、またな」

 昼休みが終わった後、先生が校門まで見送ってくれた。ちょうど5時間目に授業は入っていなかったらしく、少しだけゆっくりできた。昼休みも終わっているから生徒からの注目を浴びることもなかった。
 スーツを着て、片手をポケットに入れて立っている先生は、2年前。私が好きになった先生だ。でも、今は。普段着の先生も部屋着の先生も、抱き締めてくれた温もりも唇の熱さも知っている。先生が、想像以上にエッチだったことも。

「先生、大好き!」
「オイ抱きたくなるからやめろ。帰ったら連絡しろよ」
「うん」

 誰からも見えない木の陰で、一瞬だけ手を繋いだ。先生はきっと私にだけ見せてくれる優しい顔で微笑んで、そして言った。

「指輪似合ってんぞ」

 と。先生はいつまで経っても、私の心を動かす唯一の存在だ。
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