牽制
「お、彩ー、電話ー」

 いつものように片付けをしてくれている彩を呼べば、キッチンから小走りでやってきた。彩はディスプレイに映し出された名前を見てハッと携帯を背中に隠した。

「み、見た?!」
「おー、大島友介」
「っ!」

 そんな隠されると逆に気になるんだけどわかってやってんのか?……いや、彩のことだからそんなわけないか。つーか、大島友介?何か聞いたことある気が……

「大学の友達なの」
「ふーん」
「やきもちとか焼かないの?!」
「別に」

 彩の交友関係にいちいち妬いていたらキリがない。でも彩は俺の反応が気に入らなかったのか、頬を膨らませた。

「妬いてよ」
「おー、妬いてる妬いてる」
「もう!」
「そろそろ送る」

 最近の彩はまだ帰りたくないとわがままを言わない。もちろん俺だって帰したくないと思うし彩も帰りたくないと思っているだろうけど、ちゃんとお互いに分かってきたのだと思う。俺らはまだ、一定の距離を保っていないといけないと。
 先にマンションを出ると彩が少し後ろから出てくる。車まで行こうとしたその時。

「あ、」
「お」

 ちょうど通りかかった男には見覚えがあった。えっと確か、今の学校に来る前の高校にいた生徒で……あ。

「大島友介」
「何で急にフルネーム?」
「いや、さっき……」

 ふと後ろを見ると、彩が驚いた顔で大島を見ていた。大島が俺の後ろを覗き込む。そして「え、」と困惑した声を上げた。

「お、大島くん……」
「え、なんで大橋さんと一条が一緒に……え?」

 夜に俺のマンションから出てきたのだ。俺たちの関係はすぐに分かるだろう。特に大島は賢い奴だったから。

「え、一条ロリコンだったの」
「違う。つーか、大島と彩は同じ大学なんだな」
「うん……」
「ふーん、世間って狭いな」

 そこでようやく、彩が不安そうな顔をしていることに気付く。きゅっと俺の服の裾を掴んでいる。

「彩、大丈夫」
「え……」
「大島、俺ら付き合い出したの彩が高校卒業してからだから。ちなみに手も出してないし。でも変なこと言うやついるかもしんねーからあんま言い触らさないでくれ」
「うん、まあ、そのつもりないけど」

 彩が嫌な思いをするようなことは、できるだけ取り除いてあげたい。だから、嫉妬なんて小さい感情に振り回されている場合ではない。……まぁ、でも一応。

「で、大島ー」
「なに」
「手出すなよ」
「……」
「じゃあな。行くぞ彩」

 彩の頭にポンと手を置いて歩き出す。仲良くすんのはいいけど。言っとくけど渡さねーよ?そんな決意をして、ふっと口角を上げた。
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