全部、君と
「いい加減覚悟決めろ」
「う、うん、分かってるの。分かってる、でも恥ずかしい……!」
「いきなり孕ませたりしねーから安心しろ」
「は、はら……?!」

 二十歳の誕生日。私は無事、人妻になりました。役所に婚姻届を出して、その足でもちろん泊まったことのない豪華なホテルに来た。先生が予約してくれたホテルだ。
 夜景の見えるレストランで晩ご飯を食べて、部屋に着くとまずシャワーを浴びた。先生がシャワーを浴びている間、落ち着かなくてずっと部屋の中を歩き回っていた。
 そして。突然横抱きにされたかと思うと、ベッドに寝かされて。覆い被さってくる先生の顔を手で押したら、とっても怖い顔で見下ろされた。

「彩香」
「な、なに」
「優しくするから大丈夫だって」
「男の人の優しくするは信じちゃダメだって大島くんが言ってたもん!」
「テメ、俺より他の男の言うこと信じるのか、許さん!」
「ぎゃっ、や、はははっ」

 先生のくすぐり攻撃にのたうち回る。全く、ムードなんて欠片もない。私のせいだけど。

「酒飲ませてベロベロにすればよかった」
「最低!」
「そんな最低男を旦那にしたのはお前だろ」

 ふふんとドヤ顔をした先生に、ドキンと胸が高鳴る。そうだ。私たち、今日から夫婦なんだ。これから毎日先生と朝を迎えるんだ。何度も帰りたくないとわがままを言った、あのベッドで。離れなくていいんだ。

「先生……!」
「うおっ」

 思わず抱きついたら、先生はベッドの上でよろけながらもちゃんと受け止めてくれた。

「大好き」
「……おう」
「離れなくていいの、嬉しい」
「……そうだな」

 抱き締めてくれる腕に力が篭る。こうやって一緒にいられる幸せを噛み締めて。私たちはキスを交わした。

「……優しくするから」
「……うん」
「俺のことだけ考えてろ」

  先生が私の体に触れる。優しく、それはそれは丁寧に。私はもちろん先生以外の人とそういう経験がないから、何も分からなくて。でも先生は導くように、ゆるりと私を真っ白な世界に連れて行った。

***

 朝日に照らされる真っ白なシーツ。包まって見つめる先には、先生の無防備な寝顔。さっきから婚約指輪と結婚指輪、先生の寝顔、そして先生の左手の薬指にあるお揃いの結婚指輪を順番に見つめるのに忙しい。

「せんせ、じゃなかった、悠くん」
「ん……」
「朝だよ。起きなくていいの?」
「いい……」

 シーツの中でモゾモゾと動いた先生が私をぎゅっと抱き締める。素肌で触れ合うのがこんなに心地いいなんて、知らなかった。

「もうちょっと寝る……」
「うん」
「起きたらもう一回する……」
「ふふっ、いいよ」

 先生にぎゅーっと抱き付いて、目を瞑る。先生とならきっと、どんな困難だって乗り越えていけるって。そんなありきたりなことを思った。
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