ズルい仕草
「あー、喉渇いた。ジュース買ってこいよ」
「えー」

 オラ、オラ、と千円札を渡してくる先生に若干イラッとしながらも教えてもらっている立場な私は文句も言えず立ち上がった。生徒にあんな偉そうでしかもパシリにする先生ってどうなの。
 渡り廊下を歩いているとグラウンドや体育館から部活の声が聞こえてくる。あれこそ青春って感じ。ま、私には関係ないけど。

「……おう」
「……」

 自販機に着くと今一番嫌いな奴がいた。最悪。先生のせいだ。無視してジュースを選び出した私に苦笑いして山下はペットボトルを開けた。バスケ部は休憩中なのだろうか、チラホラと山下と同じ格好の男子が周りにいる。また変な噂を立てられるのが嫌で、私は悩まず適当に先生のジュースを決めた。

「……なぁ」
「……」
「ほんとごめん」

 あぁ、嫌だ。そうやって切なげな顔する山下も、ちょっと可哀想かもしれないと思い始めている自分も。何度も謝って、私にどれだけ嫌な顔されても話しかけて。もし、もし山下の告白が本当の気持ちなら、とても酷いことをしているのかもしれない……。

「おっせぇんだよお前」

 コツ、と頭を小突かれて見上げたら隣に先生がいた。飛んでいた思考が引き戻されて自販機に目を戻す。よかった、先生が来てくれて。

「どれにしよう」
「ん?これ」

 先生の手が後ろから伸びてきてまずいと評判のジュースを押した。げっ、と声を上げる私に「ごめーん、間違えた」とあからさまに意地悪な声が聞こえる。私は先生を振り返ってもう!と非難の声を上げた。

「こんなのいらないよ!」
「え?これ好きだって前」
「言ってない!先生のと交換して!」

 先生の手の中にある私の大好きなジュースに手を伸ばせば先生はその手を上げた。身長差からして届くはずもなく何度もジャンプしたけれど、私は必死なのに余裕で笑っている先生が悔しくてムキになってしまう。

「もう!先生!」
「はいはい、わかったよ。ほら」

 ポンポン、と頭に手を乗せた先生は笑いながら私にジュースを渡して、自販機からまずいジュースを取り出した。私は先生の優しさと仕草にキュンとしてしまって固まったまま。ズルい、そうやって不意打ちで優しくするの。

「ほら、戻んぞー」
「……」
「大橋?」
「えっ?あ、うん!」

 また頭を撫でられて我に返る。隣にいた山下のことは全く頭から消えていた。
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